風の果てに








 体は剣で出来ている。
『I am bone of my sword.

血潮は鉄で、心は硝子。
Steelis my body, and fireis my blood

幾たびの戦場を越えて不敗。
I have created over athousand blades.

ただ一度の敗走もなく、
Unaware of loss.

ただ一度の勝利もなし。
Nor aware of gain.

担い手はここに独り剣の丘で鉄を鍛つ。
Withstood pain to create weaponswaiting for one's arrival.

ならば、我が生涯に意味は不要ず。
I have no regrets.This is the only path.

この体は、"無限の剣で出来ていた"。
Mywholelifewas"unlimited blade works."

これは昔、カイト君が謡っていたものだ。

誰の事を指しているのかは分からないけど、とても悲しい詩だ。

ただの一度も他人に理解されないと言うことはどれほど苦しいだろうか。

生涯に意味がないのは、どれだけ辛いだろうか。

カイト君に『それ、自作?』と聞いたらこう答えてくれた。

『正義の味方に教わった、自らの存在を証明する詩さ』


第四話:光と闇(Ray & Dark.)


Shinji Side

『エントリープラグ挿入』

僕は今、エントリープラグと言う円柱状の物の中にいる。
赤木さん曰く、『エヴァのコックピット』らしい。

『挿入、および固定完了』

『LCL注水』

下の方から黄色い水が溜まって来た。

いや、正確には湧き出てきたと言う方が正しいかもしれないけど。

「これ、なんですか?」

『それはLCLと言って肺に取り込むことで水中でも呼吸が出来るようになるわ。
水が苦手だと分かっているけど、我慢して』

赤木さんのさりげない気遣いが嬉しい。

「血の味……」

『我慢しなさい、男でしょっ!!』

葛城さんが五月蠅い。

「人類を護る組織が男女差別とは、人選はちゃんとした方がいいですよ」

『そうね。これからはそれも規定に入れてみるわ』

さりげなく赤木さんが葛城さんを見ながら言った。
結構仲が悪いのかもしれない。

A10神経接続開始』

周りの景色が光と共に変化する。

『双方向回線開きます』

最後にはケージ、と言っただろうか。
エヴァの視点に切り替わった。

『シンクロ率四十九点七%、誤差±零点三%、エヴァンゲリオン初号機、起動しました』

『行けるわけ?』

『ええ、見て分からないかしら?』

今確かに「起動」って言ったのに。

『発進準備っ!』

ガゴンガゴンと騒音を立ててエヴァを拘束していた機械が外れて行く。

『アンビリカルケーブル異常なし』

『神経系異常なし』

『内部電源充電完了、発進準備完了』




Kaworu Side

「ルート三十四を展開」

「ルート三十四を、ですか?」

僕の記憶が正しいならばルート三十四は今のサキエルの目の前だね?

「碇司令、よろしいですね?」

普通、シンジ君に聞くべきだと思うけれど。

「もちろんだ。
使徒を倒さぬ限り我々に未来はない」

「碇、本当にいいんだな?」

彼は返事の代わりにあの嫌なニヤリ笑いで返したね。
シンジ君のどこにこの男の血が入っているか小一時間ほど問い詰めたいよ。




Shinji Side

突然、衝撃が走ったかと思えば、あっという間に地上に出ていた。

(もう、夜だったんだ)

時間とは早いものだ。

『エヴァンゲリオン初号機、リフトオフ!』

ガクンと肩が軽くなった。
目の前には使徒とか呼ばれている怪獣。
さっきから目みたいなのをパチパチ瞬きしていて、大人しくしていれば結構愛嬌があるかもしれない。

『いいわね、シンジ君。まずは歩くことを考えて』

はっ、何を言った?
敵の目の前で歩く?
練習させる時間もよこさず、敵の目の前に出しておいてこのセリフ。
もう、ダメダメだね。

『歩くイメージをしてみて』

赤木さんが説明してくれる。

歩くイメージ。
一歩、一歩歩くイメージ……。

ズンッ

『歩いたっ!』

『いけるわ、攻撃して、シンジ君!』

赤木さん、歩くかわからない物に乗せないで下さい。
でもこれまで礼儀正しかったのは赤木さんだけだし、いいや。
葛城さん、勝手な事言わないで下さい。
武器もなしで、素手であれと殴り合えと?

「何か武器、無いんですか?」

『右肩に接近戦用ニードルガン、左肩にプログレッシヴナイフが入っているわ』

「銃器は?」

『未だ未完成。使えるけれどちゃんとした命中は望めないわ』

「じゃあナイフを」

『って、ちょ、何勝手に進めてんのよ!私が指揮するのよっ!?』

するのよって……。
役取られた小学生みたいな事言ってるなぁ……。

『素人の彼に何もアドバイスしないで勝てると思っているの?』

赤木さんは理に叶った事言ってくれるから安心するなぁ、葛城さんと違って。

「ケンカしてないで武器を早くお願いします。
やっこさん来るみたいですから」

何か使徒がこっちを見ているんだよな……。
見てる、と言うよりも様子を窺ってる感じだな。

カシャン

左肩の長いパーツが展開してナイフの柄みたいのが出てきた。
それを握るイメージ。
そして構えるイメージ。

『ちょ、何勝手に動かしてんのよ!!』

「僕は命掛けてるんです。
何もしていないでギャアギャア騒ぐだけなら癇に障るんで話しかけないで下さい」

『シンジ君』

「カヲル君……何?」

カヲル君は今発令所にいるらしい。
これも赤木さんが手を回してくれたみたいだ。

『ああ言うタイプの相手には』

「うん。畳み掛けるように」

『攻撃するべし』

「だね」

あんな風に何の構えも取っていない相手には構えを取られる前に叩く。
ショウ君が教えてくれた事だ。

「……行きます」

走るイメージを思い描き、さらにナイフで左から右に一閃するイメージ。
そして袈裟に斬りつけ、突き。

若干のタイムラグがあるみたいだけれど気にしない。
エヴァは僕の想像通りに走り、ナイフを一閃する―――

はずなのに。

目の前でナイフは紅い壁に防がれ、使徒に届かないでいた。

『A.T.フィールドっ!?』

『ざまぁみなさい!あれが有る限りあんたの攻撃は届かないわ!
大人しく私の言うこと聞きなさいっ!!』

何バカな事言ってるんだこの人は!
子供じゃないんだから……。

使徒の目が光る。
屈んで避けろ―――

ゴゥッ!

光の矢がエヴァ初号機の頭上を通過し、後部のビルに直撃する。

「このっ……!!」

腰を捻り蹴りを入れるが、それも紅い壁に防がれる。

「ちっ!」

舌打ちをしてバックステップで距離を空ける。
と、その時だった。

『初号機の足下に人影を確認!』

「えっ!?」

下を見ると。

小さな女の子がガタガタ震えながらこちらを見上げていた。

「く……っ!!」

まずい。
この場所で戦ってビルの破片が当たったら只じゃ済まない。
もっと広い、障害物の無い所まで移動しなくては。

『保安部出動、彼女の身柄確保まで二分、耐えて!』

赤木さんの切羽詰まった声。
二分。
たかが二分、されど二分。
この身をもって女の子を庇うしかない。
使徒にはあの紅い壁がある。
とにかく押すしかない。
引くことは出来ないのだ。

「あぁぁぁぁっっ!!!」

初号機を壁に体当たりさせる。
そのまま両手を広げ仁王立ちをさせる。

これなら僕の意識が保っている間は抜けられる事は無い。

使徒は勢いよく右手を振り、初号機を殴りつける。

「がっ!」

殴られた腹部に痛みが走った。
これが乗る前に赤木さんが言っていた『フィードバック』ってやつか。
エヴァと僕の神経が繋がれていて、それ故に初号機の痛みは同時に僕の痛みでもあるわけだ。

さらに左、右と交互に腹部に向かってパンチを入れられる。

正直、吐きたい。

だけど、吐けない、吐いてたまるか。
ここを一歩でも後退したら女の子は潰れる。
ここで隙を見せるわけにはいかない。

使徒は初号機の左腕を掴み、さらに空いた左手で頭を掴む。
そのまま、頭と腕を真逆の方向に引っ張り上げる。

「ぐあぁ……っ!!!」

左手が潰される感覚が直接脳に叩き付けられる。

『左腕破損、神経節遮断!』

『シンクロ率低下、四十二点八%!』

『保安部より連絡!戦闘区域内にいた女児を救出したとのこと!』

目まぐるしく情報がコンソール、耳、聴神経を伝わって来る。
あの女の子、助かったんだ、良かった。

そして―――

視界は―――

光に包まれ―――

意識は―――

闇に落ちた。




暗い。

何も見えない。

分かるのは、自分の体の感覚だけ。

目の前も、前後左右、全てが暗闇。

ここはどこ……?

『この子には明るい未来を見せてあげたいんです』

誰……?

『神様が授けてくれた児。だからシンジ』

え……?

『神様が授けてくれた、まったく新しい、零から始まる命。だからレイ』

誰、なの……?

『私は、何がどうなっても貴方達を護るわ。だって私は貴方達の……だから』

よく聞こえなかった、もう一度……。

『大きくなったわね、シンジ……』

貴女は……。



暗転。




そして、気付けば病院の白い天井を眺めていた。


後書き

こゆーけっかい『へっぽこうぐぅたいやきどろぼう』。
効果:何故か何もない所でこける。タイ焼きの食い逃げスキルAを獲得する。


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