ある日突然父さんから手紙が来た。 それにはただ一言。 『来い』 最初見たときは嫌がらせか何かかと思った。 しかし、同封されていた写真とカードを見て、更に変な気持ちになった。 『私が行くから待っててね〜ん♪』 『碇シンジ君江』 さらにはご丁寧にキスマークまで。 多分二十代のお姉さんの写真。 タンクトップにホットパンツと言う、本当に二十代なのか疑問だ。 それよりもこの『葛城ミサト』と言う女性はなんなんだろう。 まさか父さんの新しい愛人? まさか母親違いの姉弟!? ……ともかく、それを確かめるには第三新東京市まで行かなくてはいけないらしい。 でも、まったくもって行く気はなかった。 何を今更呼ぶんだか知らないけど、十年も他人の家に預けっぱなし。 三年前にあった時は『お前は必要の無い子供だ』とまで言われた。 一体どこにこの男との縁があるのかわからない。 ただ毎月金を振り込んでれば良いって事でもない。 これで父親面されたら間違いなく僕は切れる。 誰が否定しようとも、この男は事実上、育児放棄をしているのだから。 というわけで僕はこの件に関しては見て見ぬふりをした。 しかし、僕はショウ君に教えてもらったある言葉をすっかり忘れていた。 『権力を持ったバカが一番タチが悪いんだよ』 第二話: ある午後の昼下がり。 シンジ、ショウ、シオン、カイト、カエデ、リン、カスミ、カヲルは全員で空を見ていた。 シンジとカヲル以外の男子はすでにコックリコックリと今にも眠りそうだ。 女子グループはカエデがすでに糸目でフラフラしている。 夢の世界に入るのはそう遅くないだろう。 シンジはひたすら空を見ていた。 ただ、見ていた。 蒼い空。 白い雲。 灰色のV/STOL機。 轟音が学校中に響き渡り、クラス中の生徒が窓の外に目を向ける。 『NERV』。 そうV/STOL機には書かれていた。 カエデが驚き、いきなりの轟音に涙目になりながら耳を押さえる。 すでに半分夢を見始めていたのか、ショウが不機嫌そうに轟音の元を睨む。 カイトに関してはいたって爆睡。 その横でシオンが『やっぱりグレートバカだ』と呟き、 カスミが呆れた様な顔をしている。 リンはリンで眠そうに頬杖を付いている。 その内バタバタと黒服が教室に入って来る。 「な、何ですか貴方達はっ!?」 教師が悲鳴に近い声を上げるが黒服達は気にも止めずにシンジの所へ行く。 「碇シンジ君だね?」 「別人です」 即答。 自分達が何者かも語らずに訪ねるのはおかしい。 ましてや黒服と言う、厳つい格好なのだからなおさらだ。 さらには見たことも聞いたことも無い人物に声を掛けられてシンジはものすごく変な気持ちになっていた。 「いや、君は碇シンジ君のはずだ。これより我々は君を連行する。 異論は無いね?」 バカだ。 シンジは心の中でほくそ笑んだ。 いきなり教室に乱入して来て名乗りもせずに自分を『碇シンジ』と決めつけ、 さらには『異論は無いね?』だ。 これで異論が無かったらよっぽど諦めるのが早い者か単なるバカだ。 「何で連行されなくちゃならないんですか」 「君は数日前にお父さんから手紙を貰ってるはずだ。 君が来なかった為、我々が君を連れて来るようにと言われた」 「へぇ、父さんに頼まれたんですか。良くあんな人でなしの言葉が聞けますね?」 「来るのか来ないのかはっきりしてもらおう。 我々には時間が無い」 「自分の都合ばかり押しつけて楽しいですか?」 「君に拒否権は無い」 静寂。 「わかりましたよ。行きますよ。 でも僕からも条件があります」 そう言ってカヲルを見るとカヲルが頷く。 「カヲル君も連れて行く、と言う条件です。 そっちがその気でこちらの条件飲まないのなら、 別に連れて行ってもいいですけど、父さんをボコボコにしてから帰ります」 「……いいだろう」 「はぁ……」 V/STOLの中で溜息を吐く。 「カヲル君、ごめんね。こんな事に巻き込んじゃって」 「別にかまわないさ。それにシンジ君を一人で行かせるのは嫌だったからね?」 「ありがとうカヲル君」 「目標、および国連軍、市街地にて戦線を展開。 目標、ダメージ零。 ダメです!目標にはミサイル等の武器は効いていませんっ!」 巨大なモニターに映っているのは巨人だった。 のっぺりとした、仮面のような顔。 肘の先から突き出た骨格。 黒い、ゴムの様な身体の中心で輝く紅い球体。 どこからどうみてもそれは人知を越えた存在である事を示していた。 「N2爆雷投下!」 モニターが真っ白に焼ける。 「どうだ!これが我々のN2爆雷の力だよ!!」 「碇君、君達の新兵器の出番はないと言う事だよ」 軍人達が次々と後ろにいた、サングラスを掛けた男に言う。 「電波障害の為、目標確認できません」 「はっ!あの爆発だ、すでに欠片も残さずに蒸発しているに決まっている!」 「爆心地より高エネルギー反応!」 「何っ!?」 そして、モニターに映ったのは皮膚が焼けただれてはいたが、 その場にいすわる巨人の姿だった。 「ったく、何考えてるのよサードは! 何で親からの呼び出しに応えないのよっ!」 「あら、十年近く離れているのよ? それに報告書には少し捻くれた子と書かれているし、 十四歳といったらちょうど反抗期。 私は彼に同情するわね」 「何のんきな事言ってるのよ、サードが来なかったら世界滅亡よ!? ったく、子供の我が侭なんかに付き合ってる暇はないのよ!」 紫色の髪の女性、葛城ミサトは気を立てながらズカズカと歩いて行った。 その場に残った金髪の女性、赤木リツコはそれを見やりながら思った。 (サードチルドレン、碇シンジ……。 果たして指令の計画を潰す為の剣となるかしら? それよりも……) 天井を見ながら呟く。 「そろそろ発令所に行かないとまずいわね」 「A.T.フィールドかね?」 「ああ、間違い無い」 モニターを映していたV/STOLが巨人の目から放たれた光線によって破壊される。 「ほう、機能増幅まで可能なのか」 「おまけに知恵も付けたようだ」 「碇君、現時刻より全ての指揮権は君達に移った」 「我々の攻撃が一切目標に通じなかった事は認めよう」 「しかし碇君! 君達なら倒すことが出来るのかね?」 碇と呼ばれた男はサングラスを指で押し上げこう言った。 「ご心配なく。その為のNERVです」 「目標修復率八十%。再度進行は時間の問題です」 「指令、どうするのですか?レイはもう……」 「問題無い赤木博士。もうすぐ予備が着く」 リツコは少しだけ引いた。 まさかここまで来てまだ実の息子を『予備』扱いとは。 「そうですか」 しかし、その息子に苛立っているのはどこの誰だったかしら? 心の中でそう付け加え、 「それでは私はサードを迎えに行ってきますので」 そう言って逃げる様に発令所から出た。 「降りろ」 黒服の声と共にV/STOLから降りるシンジとカヲル。 「こっちだ」 黒服に着いて行くとゲートが開き、その向こうには 金髪の女性、リツコが居た。 「初めまして、私はNERV技術二課E計画責任者『赤木リツコ』。 よろしく」 「あ、碇シンジです」 「その友達の渚カヲルです」 リツコは驚いた。 銀髪、紅い瞳。 自分と同居している少女とあまりに似ているカヲル。 『この少年には必ず何かある』 研究者としての直感か、リツコはカヲルへの視線を少し変えた。 「ああ、僕のこの色ですか? 僕、アルビノなんです。だからあまり長時間日の下にいられないんですよ」 平然と返すカヲル。 「そう、説明ありがとう、とりあえずだけれども、二人共、着いてきて欲しいの。 来てくれる」 そう言って歩き始めるリツコに着いていく二人。 「指令!『使徒』、移動を開始しましたっ!」 「目標は進路を十五度修正、第三新東京市に向け直進を開始しました!」 「総員第一種戦闘配備」 「了解、総員第一種戦闘配備!」 激戦の火蓋が斬って落とされ様としていた。 後書き 一気に全話編集は疲れますね……。 |