風の果てに








「お前はもう必要ない。面会も今日で終わりだ。
―――帰れ、シンジ」

いつだっただろうか。
そう、確か小学6年生の頃だ。
年に一度あるかないかの面会。その時、僕と父さんは決別した。
理由はよくわからないけど、捨てられた事はよくわかった。
ただそう、あの時の感情を口にするのならば『落胆』と言って良かったかもしれない。

親が子供を捨てるには理由があると思っていた。
仕事が忙しいとか、そんな理由でも良い。
しかしあの人は言い訳をしなかった。わかっていた事だけれど。
だから正真正銘、僕は捨てられた。一応戸籍上は『碇シンジ』だ。
なんでも良いから御託を並べるくらいして欲しかった。
我侭だってわかっていたけれど。

―――期待はあくまでも一方的な感情だと言う事を、僕は父さんに教わった。
そして多分、それが最初で最後の『父』から教わった事だと思う。



プロローグU 始まりの終わり、終わりの始まり




"ここは……どこだ……?"

朦朧としながら、意識を外界へ向ける。
個体を成す為のA.T.フィールドは機能しており、肉体の感覚を把握する。

"セカンド・インパクトで霧散して……あぁ、そうか。『渚カヲル』の身体か"

アダムとしての記憶が残っていた。
……それに激しい違和感を覚える。

"何故自身を『渚カヲル』だと……?
……まさか、記憶を封じられず『戻って』きたのか?"

ありえない。
今まで一度としてなかった事象だ。
なのに何故今更―――

"輪廻はあれが最期。
そして……これがラストチャンス……?"

だとしたならば。
もしも『世界』と言う正体不明の意思が働いているのならば、アダムたる自分は用済みと言う事だ。
故に記憶を維持したまま輪廻した。これが最期なのだから、最大限足掻けと。

"全く、『造物主』は勝手だね"

それは今に始まった事ではないのだが、逆に考えればどうか。
記憶を保ったまま行動出来る、そのアドバンテージを活かせると言う事だ。
欠点として、あまりにも大きく動くと今までと全く違う展開になる、と言う事。
……諸刃の剣、とはよく言ったものだ。

"どうせ足掻くなら盛大に、だ。
……先がないのならば掻き混ぜるのも一興かな"

どうせ今まで封じられてきた記憶がある、と言うだけだ。
ならば先の見えない、ギリギリの行動をすれば良い。
今までの自分にどれだけ抗う意思があっただろう?
今までの自分はどれだけ『運命』から逃げてきたのだろう?
半ばヤケに近いが、『世界』と戦う事に違いはない。

"さて、それじゃあ……"

―――こんな穴倉、用済みだね。


ゼーレの秘密基地の一つが消えたのは、西暦2010年9月13日の事だった。


後書き

カヲルはしばらくシンジと接触しない方向で。
風当たり厳しいねぇ。




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