風の果てに








西暦2016年。

『人類補完計画』により、地球に住まう全ての生命は統一された。

その名を『第十九使徒リリン』。

しかしその本質である多様性は失われ、ただの魂の集合体にすぎなかった。

計画の中核を成した少年、碇シンジの精神は崩壊し、共に生き残った惣流・アスカ・ラングレーもまた死した。

自我を失った少年一人を残し、リリンは長い眠りについたのだ。

……いつ目覚めるかもわからない、永劫の夢へ。




プロローグT 夢の終わり




「始まりが終わり、終わりが始まった」

少年、渚カヲルと呼ばれていた者は深紅の世界を見つめて呟く。
アダム……宇宙初めての生命による終焉。
結果としてはそれは一部の者が望んだ、一人の人間の手で遂行された。

「全く、愚かなのか利巧なのかわからないねリリンは」

アダムの魂を持つ自分がここに在ると言う事は今のサード・インパクトで別の世界が始まったと言う事だ。
おそらくそう長くない内に肉体が消失し、原初に還元されて『戻る』のだろう。
何度も、何千回、何億回と輪廻してきたのだ。今更この世界に未練はない。

「しかし、いつになったらこの輪から抜けれるのやら。見当もつかないな」

幾らなんでも飽きるに決まっている。
しかも戻る度に記憶を封じられる。
誰が考えた遊びなのかは知らないが、趣味が良いとは言えないだろう。

「眷属である使徒、もしくはエヴァを介したリリンの意思でインパクトが起きる。
リリスはそれを補助し、リリンを生むマザー。しかしリリス単体ではインパクトが起きない。
アダムの完全体と使徒が接触する事で『種』を飛ばす、か」

ロンギヌスの槍は射出装置のようなものだ。
宇宙へ翔んで行った初号機は槍と共に永劫の時を彷徨う。
……どの道中に融けた者に意識はない。

「次は変えてみるか。覚えていれば、だけれど」

おそらく無理であろう、と思っていても思わざるを得ない。
これまで記憶が戻る間全て同じ事を繰り返してきたのだ。
最初の数回はアプローチや事象が異なったものの、結果としては大差ない。
それに『種』を飛ばすと言う事は自身の完全消失を意味する。
地球だけでない、別の星で生命を育む為に自分は使い捨てにされる。
死と自由は等価値、と言うのは彼の座右の銘だがそれは肉体と魂の剥離に限った事だ。
変えたい、と思うのは自身の意思に他ならない。

「どう変わるかは僕次第、か。神を信じてはいないけれど……祈らせてもらおう」

空を見上げ、そして。
彼はこの世界から消失した。




後書き

全面改装。
正直言って難産なんてもんじゃなく、既に別物。



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