新世紀エヴァンゲリオン
-TILL THE END OF WORLD.-








「正体不明の物体、海面に姿を現しました」

「物体を映像で確認!」

「メインモニターに回します」

「20年、いえ、11年ぶりね?」

「うん、間違いないよ。この波動はね」

茶髪の女性と銀髪の男性が交互に言葉を飛ばす。
その中心で腰をイスに掛けてモニターに目を向けている男性が呟いた。

「新・裏死海文書の通りだね」

「ええ、始まるのね。またあの戦いが」

「それはしょうがない事さ。誰が一番強いかを決める大会の様なモノだからね、これは」

「どちらにせよ、始まるんだ。生死を懸けた戦いがね」




『本日12時30分東海地方を中心とした関東中部全域に特別非常事態宣言が発令されました。
住民の方々は速やかに指定のシェルターへ避難して下さい。
繰り返しお伝えします。
本日………』

ガチャン

しつこく何回も非常事態宣言を続ける受話器を切って、俺は公衆電話から出た。

「ダメか………」

日差しが暑い。と言うか痛い程に暑い。
こうなるなら帽子を被って来るべきだったか。
今日何度目か分からない溜息を吐きながら連れの少女が行った方に目を向ける。

「ショウく〜ん、こっちもダメだよぉ〜!」

元気いっぱいの少女がこちらに手を振っていた。
俺は苦笑いしながら手を振って戻って来い、と大声で彼女を呼ぶ。
たたた、と茶髪のショートカットを揺らしながら彼女はこちらに走って来て、俺の前で止まった。

「非常電話もダメだったか?」

「うん。『非常電話』なのに非常時に使えなきゃ意味ないよねぇ?」

「疑問形で俺に返すな。取りあえずここでの待ち合わせは無理っぽいな」

ガサガサと鞄の中から封筒を1つ取り出して俺はその中身を取り出す。
それには『水無月ショウ様』と書かれている。俺の名前だ。
さらにその中から1枚の写真を取り出す。
それは『私が迎えに行くから待っててね♪』と書かれた、
大体、26、7歳と思われる女性の写真。

はぁ、とまた溜息を吐いて。

「取りあえず2つ向こうの駅まで行くぞ」

ため息一つ吐いた所で何も変わらないので、
隣にいる幼馴染みの少女……碇カエデに向かってそう言い、俺は歩き始めた。

「うにゅぅ……2つ向こうの駅まで歩くのぉ〜?」

あからさまに嫌そうに言うカエデ。

「五月蠅い。最近食い過ぎで太ったとか言ってたんだから丁度良いだろ。
ダイエットだと思って歩け」

「うにゃぁ………。こんなに暑いのに〜?」

ぐちぐち文句を言いながら付いてくるカエデを無視して俺は歩いた。

「待ってよぉ……」

「嫌だ」

即答。
今のは完璧なタイミングだったな。
それよりも確かに暑い。
俺は『春雨』なんて言う日本刀に右腕が鉄だから尚更だ。

「暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い」

ガンッ!

「うるせぇっ!人の耳元で『暑い』を連呼するなっ!!」

ただでさえ暑いのに耳元で『暑い』を連呼されるのは精神的にうざったい。
と言う訳で文字通りの鉄拳制裁を加えた。

「うにゃぁ……ショウ君ひどいよぉ………。右手でぶったぁ………」

カエデが涙目で訴える。
俺の右腕は前記した通り鉄で出来ている……つまり義手。
鋼の義肢、『機械鎧(オートメイル)』。
サードインパクト後に発展した技術は義肢の発展も促した。
機械鎧(オートメイル)は『バイオメタル』と言う特殊金属と義肢本体で構成される。
バイオメタルが肉体と義肢の連結部で、そのバイオメタルの特性は肉体との同化。
別にバイオメタル部が傷ついても痛みは無い。
義肢本体との神経を繋ぐ役割を持つと同時にそれを付ければ一生、
身体の成長に合わせて連結部を変える等と言う事をしなくて良いのだ。
義肢はそのまま付ける側の人物と義肢装具士のやり取りで材質を決める。
俺の場合は『鉄』。そのままの鉄なのでもちろん重い。
ちなみに何故鉄なのかは秘密だ。

「暑いのは俺もなんだよっ! 髪が長いから余計に暑いんだっ!!」

「だったら髪切ればいいのにぃ………」

「五月蠅い。俺だってあの約束がなけりゃとっくの昔に切ってるわ」

俺達2人が口論していたその時だった。

シュパゥッ!!

「のわっ!?」

「んきゃっ!?」

ミサイルが俺達の頭上を突然飛んでったのだ。

「じゅ、巡航ミサイルっ!?」

俺の叫びと共にミサイルは街の近くの山に向かって飛んで行った。
山と山の間から何か、黒いモノが見えたと思った刹那、ミサイルはそれに当たった。

「あ、あれは………」

カエデがそれを凝視しながら口をパクつかせる。驚きで何も声が出ない、出せない。
そんな感じだろうか。俺は無意識の内に右肩の肩口を左手で強く握り締めていた。
そして、俺はそれに名を呟いた。

「使徒だ………」





第壱話:使徒、再来
EPISODE 1:Angel Attack U



バシュバシュバシュッ!!

戦闘機、S/VTOLがミサイルを発射する。それは全て使徒に当たっていた。
だがしかし………。

「効いてないな………」

当たり前と言えば当たり前か。

「あの程度じゃA.T.フィールドを破る所かキズ1つ付けられない」

11年前と同様、4本の脚を持つ使徒は悠然と町中へ侵攻した。




Shinji Side

「何故だっ! 何故目標を足止め出来んのだっ!!」

「最新型の衝撃弾頭ミサイルも効かんだとっ!?」

「ええいっ! 出し惜しみをするなっ! 入間第1第2と厚木も出せっ! 総力戦だっ!!!」

NERV本部の発令所に軍人3人の悲鳴の様な叫びが響く。
モニターには巨大ミサイルを3本の爪(指の様なモノ)で裂いている使徒が映っていた。

「A.T.フィールド。聖なる心の領域だね」

右斜め後ろにいるカオル君……今は渚カオル副司令がやれやれと言う風に呟いた。

「それより2人は大丈夫かしら?」

左斜め後ろにいる僕の妻……碇アスカ、今は碇アスカ司令代理が例の彼等の事を心配そうにしている。 「多分平気さ。彼は力を使えるからね」

まぁ、確かにそうなのだけれど。




Shou Side

ドンッ!

S/VTOLの1機が使徒の手の平から繰り出された光の槍に貫かれた。
それは完璧に揚力……と言うか制御を失って俺達の方へ落ちて来た。

「ちっ!」

舌打ちしながら俺は瞬時に脳裏に壁を思い浮かべた。
そして ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

「A.T.フィールド、全開っ!!」

心の壁を解き放つ。
俺とカエデの前に現れた赤い光の壁とS/VTOLがぶつかり合う。
俺のフィールドによって何とかそれを左右に吹き飛ばす事に成功した。

「大丈夫………?」

膝を付いて荒い呼吸をする俺をカエデが心配そうにのぞき込んでくれていた。

「まぁ……何とかな………」

いくらなんでも落ちて来る戦闘機を受け止めるなんて初めてだから結構な負担だ。

と、その時。

キキーッ!!

青い車がもうスピードでドリフトしながら俺達の前で止まった。
そして、ドアが開き、その向こうにはサングラスを掛けた女の人がいた。

「水無月ショウ君と碇カエデちゃんね!? こっちよ早く乗ってっ!!」

「か、加持さん?」

「良いから、急いでっ!」

「は、はいっ!」

「カエデ、先に乗れっ!」

俺達2人が青い車に乗り込むとサングラスを掛けた女性がさらに俺達に言った。

「しっかり捕まってて!」

そう言うとすぐにギアを変え、バックさせた。次の瞬間、元いた所に使徒の足があった。

「………っ」

「あ、足が………」

いくらなんでも洒落にならないぞ、今のは。

「ごめんなさいね。遅れちゃって」

「こちらこそ」

取りあえず返事はしておく。

「カエデちゃんの方はまだダメみたいね」

「前に1度見てるのに何を今更怖がってんだか」

でもまぁ当たり前と言えば当たり前か。

「肝が据わってるわね」

「別に。1度あれに親を殺されれば怖くなくなりますよ」

「何かそれってズレてない?」

「それより後、使徒から戦闘機が離れて行きますよ?」

「だあぁーっ!? こんな町中で『トールマイン』使う気っ!?」

女性の『トールマイン』と言う単語に再起動したカエデが声を上げた。

「あの街のシェルターはどうなるんですかっ!?」

「山1つ向こうまで住民は退避してるわ! 2人共衝撃に備えて頭引っ込めてっ!!」

次の瞬間、使徒を中心にキノコ雲が昇った。
『トールマイン』。
国連軍が第三使徒戦にて使用したN2兵器の強化型、『トールハンマー』の地雷タイプである。
その威力はN2兵器の約1.5倍。まさに『最終兵器』の名に恥じぬ破壊力を持つ最強兵器だ。
しかし、その使用権は国連の上層部からの許可が下りた場合のみとされている、らしい。
その最強兵器を至近距離、足下から受ければ流石の使徒も唯では済まないだろう。




Kaoru Side

「やったっ!!」

国連の上層部の方々が歓喜の声を上げた。

「碇君、君達の切り札の出番はなかった様だ」

勝ち誇りながら言う。
でもまだ倒れたと言う事を確認した訳ではない……先走りだ。

「電波障害の為、目標確認まで今しばらくお待ち下さい」

「あの爆発を今回は完全な不意打ちで受けたのだ、ケリは付いている!!」

「11年前は虚数空間に逃してしまったが、流石にあれには耐えられんだろう」

「爆心地に高エネルギー反応っ!」

「何ぃーっ!?」

「映像、回復します。」

「「「おおぉ………」」」

そこには使徒が平然と立っていた。
仮面の様な顔の下から這い出す様に新たな仮面が現れていた。
さらに4本あった脚が6本に増えていた。
背中には羽根の様なものも出来ている。
もしかしたら『トールマイン』の熱を利用して自己進化したのかもしれないな。

「そんな馬鹿な」

「街を一つ犠牲にしたんだぞ」

「化け物め………」

常識が通じる相手なら誰もかれも苦労しないけれどね。
因みに彼等はリリンやNERVの事を敵視している……つまり古風な考えの様だね。

「自己修復中ね」

「流石に不意打ちは効いたみたいだね」

シンジ君とアスカ君が相づちを打っているとモニターの1つが閃光と共に機能しなくなった。
よく言うノイズ、砂嵐状態だね。

「何っ!?」

ご愁傷様。
亡くなった兵士諸君には悪いけれどこれでは今までの犠牲が全て無駄だよ。

「あら、機能増幅までしたわけ?」

「サキエルと同じパターンだね」

第3使徒サキエル。
20年前に来た最初の使徒だね。

「そうじゃなきゃ単独兵器としては使えないよ」




Shou Side

「あたたた………。大丈夫〜?」

「口の中が砂だらけですけど、大丈夫です」

「うにゃぁ〜!髪も服も砂だらけだよぅ………」

ひっくり返った車から3人で這い出て来る。
約1名以外ぎゃあぎゃあ騒いでいないので大丈夫だろう。

「春雨、春雨っと」

なくしたら師匠(せんせい)に殺されるので急いで車の中から春雨を取りだした。

「ふ〜、取りあえず車を元に戻さないとね。動けないし」

だがひっくり返った車を元に戻すのは結構な労力がいる。
………しょうがない、やるか。
俺は車から少し離れた所で居合いの構えをとる。

「? 何やってるの?」

「えっと、そこ退かないと飛ばされちゃいますよ」

カエデがぐいぐい袖を引っ張って俺の前から女性……確か写真には加持ミキと書いてあった……を退けた瞬間、
居合いの構えから一気に抜刀する

「如月流、『突風』っ!!」

イメージするものは文字通りの突風。
俺のイメージ通りに放たれた風は車をすっ飛ばし180°回転させた。

「な、何が起こったの………?」

流石の加持さんも驚いた様だ。

「ショウ君はA.T.フィールドが使えるんですよ? 知りませんでした?」

何故か『ですよ?』と疑問形だがこの際どうでも良く。
俺はさっさと春雨を鞘に戻した。

「早く行きましょうよ。急いでいるんでしょう?」

俺の一言で再起動を果たした彼女は再び車を走らせた。

「いやぁ、ごめんなさいね。まさかあんな事出来るとは思わなかったから」

「初対面の人は8割方そう言いますよ。『右腕が無いのに』って。
好きで腕が無い人間なんてそうそういませんよ」

「それよりも、さっきはありがとうねぇ。おかげで早く着きそうだわ」

「それはともかく自己紹介しましょうよ。あなたがまだ『加持ミキ』さんかこっちは知らないんですから」

「そうね。私の名前は『加持ミキ』。待ち合わせに遅れてごめんねぇ、本当に」

「こちらこそ。俺の名前は知ってるでしょうけど水無月ショウです。
隣のネコ娘は碇カエデ」

本人は隣で『うにゃぁ〜うにゃぁ〜』と<泣いて(鳴いて)いるので別段間違っていないだろう。
因みに今は髪と服の汚れがそんなに気になるのか鞄から色々なものを出して必死に汚れを落とそうとしている。

「ふぇーん、汚れ落ちないよぉーっ」




The third person Side

「碇君、本部より通達だ」

「これより本作戦は君達に移行される事になった」

「君達の言う通り、使徒が学習能力を持つ事、通常兵器が通用しない事は認めよう」

「だが碇君! 君達の決戦兵器ならあれを倒すことが出来るのかね」

「ご心配無く。その為のNERVです」

「………期待しているよ」

それだけ言うと軍人達のいた場所が下がって行った。




Miki Side

「え? うん、そっちで直通のカートレイン用意しといて。
私から言いだした事ですもの、ちゃんと責任持って、2人を本部まで届けさせてもらうわ。
ん。じゃね〜♪」

ガチャン

私は受話器を置くと溜息をついた。
はぁ〜、破片直撃でべッコべコ〜っ、まだローンが21回残ってるのに………。
しかも一張羅が砂とホコリで汚れちゃうしもう最悪〜。

「ミキさん。前、壁ですよ」

「え? あ、ごめんなさい。ちなみにこれ、壁じゃないわ。ゲートよ」

ウィーン

カートレインに乗った私の愛車、AKAGI MrkUがゆっくりと降下して行く。

「これ、読んどいてね」

2人に『ようこそNERV江』と言うパンフレットを渡して再び2人を見る。
ショウ君はあれね、完全な女顔で美形。結構モテてそうな子。
カエデちゃんは……可愛いわね。ちょっと中が幼い感じはするけど、良い子みたい。

「特務機関NERV………」

「お母さんとお父さんのいる所ですよね?」

カエデちゃんが嬉しそうに聞いて来る。

「ええ。国連直属の公開組織。対使徒迎撃用組織でもあるわ」

「『世界を守る為の立派なお仕事』ですよね?」

「そ。正確にはフォース・インパクトを起こさない為にある組織よ」

「サード・インパクト前からあるんですよね」

「そうよ。サード・インパクトから世界をここまで復興できたのはカエデちゃんのお父さん、碇指令が頑張ったからなのよ。
お父さんの事、好き?」

「はいっ!大好きですっ!」

満面の笑顔で言うカエデちゃん。本当に嬉しそうだ。
でも、彼女には知らないでしょうね。サード・インパクトの引き金になったのが自分のお父さんだって事。

「もう少しで会えるから我慢してね」

ゴッ、と風が吹き抜ける音と共にカートレインが広い空間に出た。

「すごーい! 本物のジオフロントだぁ!!」

「マジで広いな」

「ここが人類の最終防衛線、NERV本部よ」




「ミキさ〜ん、いつになったらお父さんとお母さんに会えるんですかぁ〜?」

「それにここ通ったのこれで計13回目ですよ」

カエデちゃんの不満そうな声とショウ君からのトドメの一撃を受け、私は自主防衛の為、開き直った。

「大丈夫よっ! システムは利用する為にあるんだからっ!」

「そのシステムに振り回されないで下さいね」

ショウ君は顔に似合わず容赦がなかった。




The third person Side

『技術一課担当の大葉リエ博士、技術一課担当の大葉リエ博士、作戦部責任者加持ミキ一尉がお呼びです。
至急………』

コンソールに手を伸ばしていた腰まである黒髪の女性が溜息を吐くながら呆れた様に呟いた。

「………また迷ったのね。あの子は」




Shou Side

未だ施設内を迷っていた俺達。いい加減目的地に着きたいのだが、
加持さんが迷っていてエレベーターの前で立ち往生していた。

チーン

と、エレベータのドアが開き中から女の人が出て来た。

「何やってるの、加持一尉!」

いきなり加持さんに怒鳴る女の人。
カエデの体が跳ね上がって俺の後ろに隠れた。
でもな、お前今の怒鳴り声より師匠の怒鳴り声の方が恐いだろ?

「げ……リエ………」

「『げ』とは何よ。『げ』とは。折角来てあげたのに」

多分さっき呼び出してた『大葉リエ博士』とやらだろうな。この人は。

彼女はふぅ、と溜息を吐くと俺の方を見た。

「で、こっちの男の子が8thチルドレンって訳ね」

「そ。マルドゥック機関が選定した8thチルドレン。結構性格きついわよ」

失礼な。

「水無月ショウ君、碇カエデちゃん初めまして、
私は特務機関NERV技術一課担当責任者『大葉リエ』。よろしくね」

「初めまして大葉さん。水無月ショウです」

「碇カエデですっ」

「私の事はリエでいいわ。2人にちょっと見てもらいたいものがあるの。付いて来て」




The third person Side

「碇指令っ! 使徒が移動を開始しましたっ!」

「ベクトル15度修正、目標は第三新東京市に向かって来ています!」

それを聞いたシンジは、

「総員第一種戦闘配備っ! 対地迎撃戦用意っ!」

「了解っ! 総員第一種戦闘配備っ! 繰り返す、総員第一種戦闘配備!!」

オペレーターである彼の親友、山岸ケンスケ(旧名相田ケンスケ)が復唱する。

「シンジ君、どうすんだい? 初号機はパイロットがいない、
零号機は凍結中、まさに手詰まりだよ?」

「初号機を使うしか、ないよ」

「初号機かい? 彼女は乗れるか解らないし、第一彼女は重傷だよ?」

「その為に彼を呼んだんだ。まさか今日になって来るとは思わなかったけど」

「彼かい? 彼が乗ってくれるかな?」

「………正直な話、解らない。彼が拒否するのなら運命と思って諦めるしかないさ」




Shou Side

「真っ暗ですよぉ、ここ」

暗闇が怖いのかカエデは俺の左腕にしがみ付きながら言った。

「大丈夫、今照明を点けるから」

大葉さんの声と共に、照明が点く。
暗闇からいきなり明るくなったので目がくらむ。

で、そこにあったのは………。

「顔………?」

「お、鬼っ!?」

前者が俺で、後者がカエデのそれへの感想だ。
そのにあったのは顔。
巨大な灰色……モノトーンカラーの鬼の様なものの顔がそこにあった。

「鬼ではないわ。20年前、サード・インパクトの依代とされ、
数々の使徒を倒してきた究極の人型決戦兵器、人造人間エヴァンゲリオン初号機。
20年前より改造を施してあるけど、本物よ」

「これが、お父さんとお母さんのお仕事ですか………?」

「そうよ」

突然横からの声。
そこにいたのは碇アスカ姉さん、カエデの母である。

「お母さんっ!!」

姿を見るや否や抱き付くカエデ。には泣き始めてしまった。
よほど嬉しかったのだろう。
なんて言ったって1年に数度しか会わないのだから。

「カエデはいつの間に泣き虫になったのかしら」

アスカ姉さんがカエデの頭を撫でながら言う。

「ショウ君!」

さらに上のタラップからの俺の名を呼ぶ声。

「久しぶりだね。2人共」

「シンジ小父さん、お久しぶりです」

「お父さん………」

「しばらく見ない間に大きくなったね、2人共」

碇シンジ。
カエデの父で、俺の父さんの友人。
眼鏡を掛けている以外は全然変わっていない。
小さい頃はよくうち(プレハブ小屋)に遊びに来ていたが、ここ数年は来なくなった2人。
多分これ……エヴァンゲリオン初号機の事とかで忙しかったんだろう。

と、その時だった。

ズズンッ……ドドドドド………

突然が衝撃がジオフロントを襲った。

「くそっ!もう気付いたのかっ!?」

シンジ小父さんが恨めしそうに毒づく。

「ショウ君、カエデ。これから言う事を良く聞いてほしい。
今日2人を呼んだのは他でもなく、ショウ君、君にこのエヴァ初号機に乗ってもらいたいんだ」

「そんなっ!」

声を上げたのはカエデだった。

「そんなっ、お父さん嘘だよね!?
ショウ君に、これに乗って貰うために私達を呼んだなんて、嘘だよねっ!?」

「悪いけれども、本当だよ」

「そんなっ! こんな見た事もないものにいきなり乗れだなんて、無理だよっ!!」

「解っているよ。別に彼が乗らなくてもかまわない」

「良いの!?」

「うん。元はと言えば始めから無茶は承知で頼んでいるんだ。
乗ってくれなくてもその時はその時でなんとかするさ」

カエデとシンジ小父さんの対話を聞き流しながら、俺はエヴァンゲリオン初号機を見上げていた。

俺が、こいつに乗るって……?

もし、乗らなかったらどうなる?
シンジ小父さんはああ言っているけど、本当になんとかなるのか?
あいつにまた『トールハンマー』が効くのか?

……なんともならないし、もう効く訳なじゃないか、あいつに。

俺がこいつに乗らなかったら、皆が死ぬ?
師匠も、ジュンさんも、神楽も、黒金も、槇野も、父さんも、シンジ小父さんも、アスカ姉さんも、
カオル兄さんも、レイ姉さんも………。

そして、そしてカエデも……?

「さぁ、ショウ君どうするんだい? 選択肢は2つかしかないんだ、不本意だけどね。
乗るか、乗らないか。決めるんだ」

「………乗ります」

「「っ!?」」

「ショウ、本当に乗ってくれるの?」

アスカ姉さんが確認を取るように聞いて来る。

「はい。乗りますよ。これに」

「ちょっ、ショウ君貴方何言っているか解っているのっ!?」

加持さんが凄い形相で俺に言い寄って来た。
だけど……。

「だから分かってますよ」

だってそれはもう、決めた事だから。

「ショウ君、これに乗るって事は、外にいるあの使徒と戦うんだよっ!?」

カエデが泣きながら俺の服を引っ張って来る。

「ああ、分かってる」

「分かってないよっ!! あれに乗って、戦って、もしかしたら死んじゃうかもしれないんだよっ!?
嫌だよっ、ショウ君が死んじゃうのはっ!!」

カエデは俺の胸の辺りに顔を沈ませて泣き出してしまった。ただっ広い部屋にカエデの鳴き声が響く。
あーあ、帰ったらシャツ洗濯しなきゃなぁ………。

と、心の奥底で他愛もない事を見つけて俺はさらに確信した。

俺よ、今更逃げてどうする?
今まで俺は色んな困難に馬鹿正直に真正面からぶつかって来たじゃないか。
そんな俺が、こんな所で使徒に背中見せて逃げるのか?
そうだ、あの使徒より師匠の方が恐いじゃないか。
今までだって死に掛けた事は何度もあった。
師匠の地獄の特訓メニューで血尿になった事もあるし、
鉄柱に腕潰されて義手にしてるじゃないか。
なら、この程度の事、どうでもないだろう、俺?

それに、だ。
俺が逃げたら皆が死ぬんだ。
だから、俺はカエデにこう言った。

「だけど、誰かがやらなきゃ皆死ぬんだ」

「でもっ、でもショウ君がやる必要はっ………!」

「幸い、俺にはあいつと戦う理由がある」

それを聞いてカエデの体が震えた。
11年前のあの時に母親と腕を奪われたのだ、あの使徒に。
戦う理由としては充分だ。

「ショウ君。後悔、しないね?」

シンジ小父さんが最終確認とばかりに聞いて来る。
もう答えは決まっているのだ。だから一言、こう言った。

「はい」

俺がそう答えると大葉さんは慌ただしくどこかに駆けて行き、
加持さんは俺の事を心配そうに見ている。

「ショウ君………っ!」

カエデがぐしゃぐしゃになった顔で俺を『行かないで』と言いながら見つめていた。
だから、俺は頭を撫でながら、言った。

「絶対に帰って来るから」

それを聞くとカエデはまた俺の胸の顔を埋めた。
これでもう洗濯は確定だ。

「本当、カエデは甘えん坊ね?」

アスカ姉さんが『やれやれ』とジェスチャーする。
俺にしてみれば今更なのだが。
そして、シンジ小父さんの声が広い室内に響き渡った。

「エヴァンゲリオン初号機起動用意っ!!」





後書き


改訂版です。
まさか出来てるものを作り直すのがこんなに大変だとは思いませんでした。
ちょこちょこと変えてあるので前のやつを保存して持っていたりする物好きな人は比べてみて下さい。
結構変わってます。
では、第弐話で。





インデックスに戻る

第弐話へ進む





アクセス解析 SEO/SEO対策