俺は上島祐樹、十六歳。 訳あって、山海門村に引っ越して来た。 中学三年の秋に親父が言い出して、高校一年に上がるのに合わせて引っ越した。 別段志望校もまだ決めていなかったから、村にある学校を受けた。合格した。 因みに村の名前、『さんかいゆきむら』と読む。 決して『やまうみもんむら』とか読まないように。 で、この村。 山は近いし海も近いし街まで行くのに山一つ越えなきゃならない田舎だ。 山と言っても小さな山だ、俺の足で歩いて大体行きで一時間。 自転車でも行けるが、なんせ舗装されてない砂利道だ。あんまりオススメはしない。 村には田んぼもあるし、一応はコンビニとスーパー、金物屋にその他必要最低限の店はある。 この村は先程も言った通り山と海に近い。 ぶっちゃけ、東に行くと海。 それ以外は全部山。山で囲まれている村なのだ。 西に行けば街に出る。 村の真ん中には川も流れていて、水も綺麗で美味しい。メダカだってザリガニだっている。 魚釣りしても怒られないし、むしろ一緒に釣りを初めてしまう程村の人達は良い人達だ。 学校は連なって幼稚園、小学校、中学校、高校がある。 村の人口が約一二○○人なのだから、当然生徒も少ない。 そのため一階と屋上とちょっと狭いグラウンドしかない。 学校施設は全部中で繋がっているので高校の棟から中学の棟、小学校や幼稚園に行ける。 まぁ、小学校とか幼稚園の方は行く事がほとんどないけど。 学校の屋上で食べる弁当は美味い。 屋上から海が見えるので水平線の向こうを見ながら弁当が食えるのだ。不味い訳がない。 もう少しで本格的に夏に入るので、潮風が気持ち良い。 あぁ、村から海までは大体十五分くらいの距離だ。そう遠くない。 うちの隣の家には、三姉妹がいる。 一つ年上の、長谷川静音。 同い年の、長谷川初音。 一つ下の、長谷川観音。 静音さんは大人しくて天然な人だ。いるだけで場を和ませる。 初音に関しては委員長だ。 うちのクラスを仕切る彼女は非常に責任感も強く、人の面倒見が良い。 毎朝俺を待っていてくれるのも彼女だ。 観音ちゃんは大人びていると言うか……一言一言がきつい。 その為直情単細胞の初音とよく喧嘩している。口喧嘩で勝つのはいつも彼女だ。 そんな三姉妹や新しい友達に恵まれた俺は、幸せなんだろうな。 だから、この日常は何よりも大切で、尊くて、儚くて。 いつか壊れてしまうんじゃないかと考えるだけで、怖くなる。 「祐くん、何ぼーっとしてんの。早く学校行くよ!」 「ん、分かった。全速力で川に飛び込め」 「……ふざけるの大概にしないと、殴るよ?」 「ごめんなさい」 いつもの朝だ。嫌になる程いつも朝だ。 朝起きて、朝飯食って、顔洗って歯を磨いてトイレ行って着替えて。 行く準備が出来たのを見計らった様に初音がうちに来て。 でも、この幸福はそんなに長く続かない。 そんなアテにならない俺の勘が、そう言っていた。 |