夏に咲く紅の花/第九話:三日目B







夏に咲くの花








古今東西、『隠れる』と言う行為は色々な方面で研究されて来た。
まぁ、主にそれを活用するのはスパイとか密偵くらいなんだが。
最近じゃあゲームでも『隠れる』事が出来るものもある。流血描写がちょっと目に痛いが。
隠れる方法として一番マイナーでかつ使用されるのが『物陰に隠れる』と『何かの中に入る』だ。
前者はよく警察が尾行時に使う。車の中然り、電柱の影然り。
後者は自分で穴掘って中に隠れたり、倉庫の中、トイレの中、様々な場所に隠れる事を言う。
日本特有の隠れ方は『物になりすます』と言うものがある。壁になりすましたり、木になりすましたり。
当然ながら、俺にそんな超人的な芸当が出来る訳がない。
ならば、どうするか。
鬼ごっこなのだから要するに見つかってもタッチされなきゃ良い。
つまりは見つかってもすぐ逃げられる場所が好ましい。
出来るだけ見つからず、それでいてすぐ逃げられる場所。
この矛盾する条件を満たす場所は果たしてこの学校内にあるか?
理科室……駄目だ、見つかった場合に逃げる事が難しい。
保健室……は論外だ。エマ先生に迷惑がかかる。あの人は喜びそうだが。
倉庫は? ……難しいな、上に登ったとしても下を囲まれたら終わりだ。
どうする、どうする、どこにする?

「あ、祐樹君みぃーっけ♪」

「やばっ……」

静音さんが廊下の向こうで俺を指差していた。
とにかくここから離れよう。



「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」

流石に幼稚園の方までは追って来なかった。
やばいな、孤立するとみんなに囲まれた時逃げ切れない。
俺は都会の方では運動神経は良い方だった。
が、田舎の人間は尽く身体能力が高い。
あの、のんびりしてて口調も態度もほんわかな静音さんだってそれなりに足が早いのだ。
初音や桂治はさぞかし早いに決まってる。
とてもじゃないが、俺が鬼だったら負けてたな。

「さて、どこにするか―――」

ふと足が引っ張られたので下を見ると、幼稚園の子、だろうか?
女の子が制服のズボンの裾を引っ張っていた。

「おにいちゃんどこからきたの?」

「高校……って言えばわかるかな?」

「こうこう?」

「えっと……向こうの方にある大きい所から来たんだ」

「???」

首を傾げるのが可愛らしい。
この幼稚園まで来たって事は、山が近い。
いや、確かほんの少しだけ山の中が所有地になっていたはずだ。
つまり、ある程度なら山の中に隠れられると言う事だ。
が、山の地形を理解していないとやばい。
さぁ、どうする上島祐樹……。

「ねぇ、ねぇ、おにいちゃん。あっちのすべりだいであそぼう?」

すべりだい?

「そうだよ。あのおっきいすべりだい。みんなもいるからあそぼうよ」

女の子に手を引かれて付いて行くと、山の斜面を利用して作られた巨大な滑り台があった。
……ここなら行けるんじゃないか?

「あの、ちょっとお兄ちゃんはやる事があるんだけど、良いかな?」

「え、いっちゃうの?」

う、なんかすっごく罪悪感が。

「また今度遊んであげられると思うから、ね」

「……うん」

良かった、納得してくれたらしい。
女の子と別れてから、まずは滑り台の上に登った。
滑り台の近くの草むらに身を屈めて隠れる。
下からは見えないし、もし登って来て見つかってもすぐに滑り台で降りられる。
そんでそのままもっと別の所に逃げれば良い。完璧だ。

「あ、上島君」

「聡美?」

「良かった、まだ捕まってないんですね」

胸を撫で下ろしながら聡美が言った。
と言う事は聡美もまだ捕まっていないのか。

「聡美もここに隠れてるのか?」

「はい、ここって風通しも良いし下からは見つかりにくいですし、景色も良いですし」

なるほど、体の弱い聡美にすればここは絶好の地形なのか。

「途中で観音さんが捕まりました。私はなんとか逃げられたんですけど……」

「観音ちゃんが早速鬼の仲間入りか……」

俺と聡美、静音さん以外の部活メンバー(つまり残存の三人)で凄まじく頭が切れるのが観音ちゃんだ。
一体どんな罠を仕掛けて来るかわかったもんじゃない。
平気で嘘の一つや二つは吐くだろう。
これまた厄介な……。

「初音と桂治は平気なのかな?」

「兄さんはあれで隠れるのが上手いからまだ捕まっていないと思います。
初音さんはどうかわかりません……初音さんですから」

まぁ、初音だしな。
生き残っていても死んでいても厄介だ。
と言うか長谷川姉妹はマジで規格外だな、色々と。

「聡美は良い娘だなぁ、本当」

「ふぇ!? な、何するんですかぁ……」

「いや、頭撫でてるだけ」

本当にえぇ娘や……清涼剤じゃ……。

「初音もこのくらい大人しかったらなぁ……」

「わ、私って結構一人の時、やさぐれてますよ!? 悪い子ですよ!?」

「いーや、良い娘だ。俺の清涼剤だ……」

「せ、清涼剤……?」

「つまりはいるだけで癒されるって事だ……」

顔を真っ赤にしながらも大人しく撫でられてる聡美が可愛い。

「景色、綺麗だな」

「さっき、そう言いました……」

ちょっと拗ねたように彼女が言った。
それがまた可愛らしくてほんの少し強く頭を撫でた。









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