「俺もうお嫁に行けない……」 「それ言うなら婿だろ」 「腕の内出血くらいで大袈裟」 「あはは、ちょっとやり過ぎたかな?」 「後でちゃんと湿布張っておけば何とかなりますよ、兄さんは」 うわ、聡美がさり気なく酷い事言った。 昼休みは桂治の犠牲で終わった。とにかく悲惨だった。見てて哀れだった。 放課後の今でさえもぐったりしている。 「俺、今日傍観してる」 「部長権限で却下します。教室にいる以上絶対参加」 「じゃ、聡美。後は任せたぞー♪」 「逃げるのもだーめっ☆」 襟を捕まえて、更に桂治を引きずって無理矢理イスに座らせる初音。怖い。 「静ねえ、ロープ」 「はい」 「「何ィッ!?」」 ちょっと待て、今どこからロープ出した!? 俺にはスカートのポケットから出したように見えたんだが。 「観音、そっちお願い」 「ぐるぐる」 ロープでイスに固定される桂治。 敵前逃亡は銃殺刑、ってか? 「ではこれから第三回神内桂治的当てを始めマース♪」 「「「はーい♪」」」 「へるぷみ〜〜〜〜ッ!!! 祐樹、助けてくれぇーーーーーーッ!!!!!」 「ルールは簡単。このガスガンで桂治の額を撃ち抜いた人が勝ち。その他に当たっても点数なしねー」 「それはまずいだろ!!!」 ガスガンってお前……それは流石に……。 「駄目?」 可愛らしく首を傾げながら初音が聞いて来る。 「駄目」 「どうして?」 「ガスガンってお前……危ないだろ。いくらなんでもやり過ぎだ」 「……どうしても?」 「駄目だ」 上目遣いで俺を見上げる初音。 可愛くしたって駄目なもんは駄目だ。 「……祐くんって以外と頑固だったんだ」 「今頃分かったのか?」 「しょうがない、桂治の粛正は祐くんに免じて許してあげましょう」 「初音、今日は何だかご機嫌」 「昨日やっぱり祐樹君と何かあったのかしら?」 「怒っているよりは笑っていた方が良いですよ」 「やっぱり昨日海岸で何かふぎゃ!!」 「やっぱり銃殺刑かなぁ? ねぇ、神内桂治くん?」 「お前、折角助けてやったのに自分で駄目にしてどうするんだよ」 因みに断固として変な事はしていない。 「ま、それは後回しにして、と。今日は何やろっか?」 「スタンダートに今日もトランプか?」 「今日はお天気が良いですから、外で遊びたいです」 「聡美の意見に賛成」 「それじゃあ、何をしましょう?」 「野外ぷれぐふぉッ!?!?」 だから桂治、そのネタからいい加減離れないとマジで死活問題になるぞ? 聡美の鉄拳もやばいな。気を付けよう。 「ではこれより鬼ごっこを始めます」 初音はそう宣言しながら黒板に半ば書き殴った様な字でルールを書いて行く。 「行動範囲は学校の敷地内に限定。 鬼の選定はジャンケンで一人決めます。 鬼は百秒数えてからこの教室よりスタート。 今回の鬼ごっこの特別ルールとして鬼は伝染型、つまり鬼にタッチされた人間も鬼になる変則ルール」 はーい、と静音さんが手を挙げた。 「つまり、鬼は増えて行く、と言う事?」 「そう言う事。時間経過と共に周りは敵だらけになるサドンデスバトル。 タイムリミットは……今が午後三時ちょい過ぎだから三時半から始めたとして終了は五時。 それまで鬼にならずに逃げおおせたのなら勝ち。この場合は一番最初の鬼が一人で罰ゲーム。 全員鬼になってしまったら最後に鬼になった人が罰ゲーム。 これが今回のルールで異議は?」 静まり返る教室。もう残っているのは幼稚園の方くらいだ。 「では、異議なしと言う事で鬼を決めます」 全員の顔が引き締まる。 一人でも逃せば鬼は罰ゲーム。可能性は全て排除するに限る。 「最初はぐー……」 左利きである聡美以外の全員が右手を差し出す。 「ジャンケンポンッ!!!」 俺はパーを出した。 聡美がチョキで、初音もチョキ。 静音さんがパーで、観音ちゃんがグー、桂治もグーだ。 「あいこ、か」 こうなればあれか、二人づつに別れてやると言うトーナメント方式。 「二人づつに別れて。あたしは桂治とやるから」 にっこり微笑みながら桂治をカモる初音。なんか今日は凶暴だなぁ。 「じゃあ俺は、と」 「祐樹は私と」 観音ちゃんが自分から挑戦状を叩き付けて来た。 仕方ない、やるか。 「最初はグー」 俺も観音ちゃんも真剣に互いの両手を見つめる。 次で決まるのだ。 「ジャンケンポン!」 俺はパー、観音ちゃんはグー。俺の勝ちだ。 「負けた……」 負けても尚、鋭い眼光のまま観音ちゃんは鬼決定戦へと赴いて行った。 「で、鬼は静音さん、と」 「はい☆」 にっこり微笑んでいるけどその後ろの黒い炎は何かな? 「じゃあ静ねえ百秒数えてねー」 「ずるしたら罰ゲーム」 「今日こそは逃げ切ってみせる!」 「で、出来れば隠れられる所が良いなぁ……」 みんなそれぞれ教室から走り去って行った。 静音さんはカウントを始めている。 ……良し、俺も行こう。 |