夏に咲く紅の花/第七話:三日目@







夏に咲くの花








ぼーっ、としながら目を覚ます。
ちゅんちゅん、と雀の囀りで起きるのは気持ちが良い。
が、今日はそれとは反対にあまり気分の良いものではなかった。

『絶対に……いなくなっちゃ嫌だよ?』

あの一言が頭に焼き付いて離れない。
……もう、考えるのは止めよう。
初音の言い間違いか、俺の聞き間違えに違いない。きっとそうだ。そうに決まってる。
いつもと同じ風に笑って、話して。それで良いじゃないか。
よし、起きよう。




「で、昨日お前等どこ行ってた?」

「初音、昨日祐樹とどこ行ったの?」

「初音ちゃん、祐樹君とどこに行ったの?」

桂治と観音ちゃんの目はマジだ。
静音さんはふざけているだけ……だと思う。
どうやら二人共復活したようで、いつもの様に一緒に登校した。
で、教室に来れば桂治がどこからか嗅ぎ付けたのか昨日の事――初音と海に夕日を見に行った事――を聞いて来たのだ。
本当、こう言う話が好きな奴だ。

「だ〜か〜ら〜、昨日は祐くんと一緒に夕日見に行ったの! それ以外なんもしてないもん!」

「そんな訳があるか! 祐樹も健全な日本男児! 同い年のオナゴと一緒に海行って、何もしなかった訳がない!!」

「じゃああんたはあたしと二人っきりで海行ったら何すんのよ?」

「それは無論、押し倒す!!!」

「こンの……ド変態ィーーーーッ!!!」

おぉ、正拳一発で桂治がドアの向こうまで飛んで行く。
やったな桂治、人類は飛行機械なしで空を飛べる事を今お前が証明したぞ。

「兄さんの……変態ぃ……」

「あー、よしよし、泣くな泣くな」

「あんな兄を持って、聡美が可哀想……」

「桂治君は少しハイテンション過ぎます」

桂治、お前の株どんどん下がってるぞ。

「死ね、死ね、死ねぇーーーッ!!!」

更に蹴り上げ、アッパーカット、正拳の三連コンボを受けて吹っ飛んで行く桂治。
……流石に死ぬんじゃないか?

「り……理想を貫け、祐樹……」

「祐くん?」

すまん、桂治。お前の後を継ぎたいが初音の戦闘力は規格外だ。
つーか初音、お前強すぎだ。

「そろそろ授業が始まるから教室に戻る」

「お、おう、じゃあまた昼休みな」

高等部の教室は先生が来る直前まで阿鼻叫喚だったと書いておこう。




「今日の昼休みの部活は……これだぁーーーーッ!!!」

ばーん、と初音が机に叩き付けたものを皆で凝視する。
そこにはトランプが置かれていた。

「なんだ? ババ抜きでもすんのか?」

「今日は神経衰弱で先に四組取った人から抜けて行くサドンデス!
ちょっとだけ変則ルールで面白いでしょ?」

「トランプはジョーカー二枚を抜くと五十二枚で二枚一組だから二十六組。
今ここにいるのは初音・静音さん・観音ちゃん・桂治・聡美・俺だから六人。
二十六割る六は四.三三三……一人四組の計算だと二組余るぞ?」

「じゃあ、先に六組取ったら一番にすれば良い」

「もし二人が五組ずつ取ったら?」

「んー、別に終わった後で一番多く取った奴が一番でも良いんじゃね?
一番多かった奴が一番。全体で一番少なかった奴がビリ。同じ順位の奴が複数いても良し。
ビリが複数人でもそいつ等に罰ゲームやらせれば良い訳だし」

「あ、それ良いかも。みんなそれで良い?」

「って言うかそれって普通のルールじゃね?」

「……」

「……」

「間抜け」

「ちょっと……お酒が抜けてなかったのかしら?」

「ま、まぁ良いじゃないか! やろう、な!」




「七、七はどこ!? あった!!」

「Jは……こことここだな」

「A、みっけ」

「二は……ありました」

「三、三はどこだぁ〜〜〜〜ッ!?!?!?」

「あ、三ありました♪」

「のおぉ〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!」

桂治、悲惨だな……。
第一ラウンドは初音が八組。
俺が五組、観音ちゃんが同じく五組、静音さんと聡美が三組。桂治が二組。
罰ゲームは桂治一人だ。

「じゃ、引くよ」

『地獄の所業』と赤い墨汁で殴り書きされた箱から初音が紙を一枚引っ張り出した。

「んーと、『全員から竹篦を喰らう』」

「のぉ〜〜〜〜っ!? それ前に俺が書いて入れたやつぅ〜〜〜〜〜〜っ!!!」

うわ、悲惨。
初音は見た目以上に力あるし、観音ちゃんも静音さんも聡美も本気でやれば結構痛いだろう。
俺は男なのでいて然り。
まずは、聡美から。

「兄さん、歯を食いしばって下さい☆」

「ちょ、ちょっと待て聡美! お前が本気でやったら内出血が……ぎゃぁーーーーーーーッ!!!!」

ばちんっ、と予想以上の音が教室に響いた。
桂治は腕を抑えて悶えている。

「な、なぁ……聡美ってもしかして……」

「本気出せばあたしより力あるんだよ、聡美って」

マジかよ、おい。
これから体罰系罰ゲームにだけは当たらない事を願おう。
竹篦する時の聡美の目がやばかった。虫螻を見るみたいな目だった。怖い。

「次は、私ですね。えいっ」

静音さんは優しいからわざわざ桂治に傷を抉る様な真似はせず、優しく一撃を入れた。
良かったな、静音さんがいて。

「……桂治、覚悟(ニヤリ)」

ぞくぅっ!
ナンカセスジガコオルヨウナサッキヲカンジタンデスケドキノセイデスカ?

「……滅殺☆」

「―――ッ、ーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!」

最早声にすらならない悲鳴を上げて桂治が床を転げ回った。
うわぁ、マジで容赦ねぇ……。
これが文字通りの『絶叫』ってやつだな。声も出せないってなんだよそれ。

「で、次は俺だな」

「祐くん、手加減しちゃ駄目だよ。調子付くから」

先生、ここに女の子の姿した鬼がいまーす。

「ゆ、祐樹……」

「すまん、桂治……」

俺の一撃はクリティカルヒットした。
再三床に倒れて悶える桂治。すまん、初音には勝てる自信がないんだ。

「じゃ、最後はあたしだねー☆」

『それじゃあ久しぶりにマジで行こうかなー☆』なんて物騒な事を言いながら初音は桂治の腕を掴んだ。
気のせいだろうか、桂治が兎で初音が鷲に見える。

「ちょっ、待て、それはマジでっ、洒落にならなぎゃーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!」









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