夏に咲く紅の花/第五話:二日目A







夏に咲くの花








「くっ、まさか初音が着痩せするタイプだったとは……神内桂治、一生の不覚っ!」

「ふふん、どう? 身の程を知ったかしら。おーほっほっほーーーーっ」

プールに初音の笑い声が響き渡る。
初音の前には跪いた桂治。
まぁ、確かに初音は着痩せするタイプなんだろう。
制服着てたよりも確かに出てる所は出ていて、へこんでる所はへこんで見える。
が、だ。俺が突っ込みたいのはそれよりも……。

「なぁ、何でスクール水着なんだ?」

「き、聞かないで下さいっ」

女子、男子共にスクール水着でプール。
ぶっちゃけ同じ時間に入る事さえ都会ではありえないのにここでは更にスクール水着と来た。
凄いな、山海門村。
当然ながらスクール水着と言うのは市販されている水着と比べて色が黒い。むしろ黒しかない。
女子のはまぁ、似てるのが色々あるんだろうが、男子はそうは行かない。
男子用スクール水着に似ているのは競技用のものくらいだろう。
つまりは、だ。女子ならず男子まで着てる部分が強調される上に体の線がくっきりと出るのだ。
ここでは皆大して気にしていない様だが、都会だったら間違いなく俺は自害する。

「で、更には時間まで自由か」

「ちゃんと四十五分経ったらプールサイドに上がらなきゃ駄目ですよ」

「ん。でもやっぱり不思議でならん。何故スクール水着なんだ?」

「だ、だから私に聞かないで下さいぃ」

胸元を隠しながら顔を赤くする聡美がちょっと可愛い。
まぁ、からかうのもここら辺にしておいて。

「蝉、五月蠅いなぁ」

「もう、夏ですから」

プールの水が暑い日差しと対照的に体を冷やして行く。
高三の先輩方はプールサイドにあるベンチで参考書を読んだり色々とやっている。
二日酔いも段々と楽になって来た。
静音さんも観音ちゃんも来れば良かったのに―――

「……あんなだから無理か」

「?」

トイレに籠もりっぱなし、部屋で唸っている二人を考えて苦笑する。
酔った時は流石に引きかけたが、翌朝これでは『ドンマイ』としか言いようがない。
ぎゃーぎゃーと耳に入って来る雑音―桂治と初音のタイマンバトル―はまだ続いているようだ。
基本的にこの学校の体育は中学、高校が連動して行っている。
つまりは、中学生とかもいる訳だ。
高校生の数も少ないが、中学生の数もこれまた少ないのが山海門村だ。
……そう言えば観音ちゃんって今年受験生なんだよなぁ。

「どうかしたんですか?」

「いや、観音ちゃん今年受験生なのに休んで平気なのかなって」

「大丈夫ですよ。高校に上がるだけなら出席日数と成績がある程度足りていれば問題ありませんから」

「出席日数、平気なのか?」

「一年に二、三度休むくらいなら平気ですよ。ほら、私もよく休むけどちゃんと上がれてるでしょう?」

「……ま、そうだな。心配しても意味ないか」

「そうですよ。ほら、泳ぎましょう。せっかくのプールなんですから勿体ないですよ」

そう言うと聡美は潜水しながら初音の足下まで泳いで行く。
初音は桂治と何故かジャンケンをしていて気付かない。
そして―――

「っ!? きゃんっ、わぷっ、ちょっ、何ぃ!?」

足を取られて慌てまくる初音。
―――成る程、確かにそうだ。
せっかくなのだから楽しむべきだ。
俺もそう思い、潜水しながら桂治の足を引っ張った。









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