「待て待て待てーい!!!」 「待てと言われて待つ阿呆がいるかーーーーッ!!!」 「う、上島君……ちょ、待って下さいぃ……」 ありえない。 何故初音が鬼に? しかも何故あんな所をピンポイントで探しに来る? 聡美は体力がないのですぐにへばった。足は速いんだけど。 「祐くーーーん、さとみーーーん、待てぇーーーーーーッ!!!」 「さとみんってなんだ、さとみんってぇーーーーーーーッ!?」 「聡美ちゃんのあだ名ぁーーーーーーッ!!!」 「……」 聡美が虫の息だ、やばい。 ついでに俺もやばい。腹痛い。 初音は依然として全力疾走中だ。追い付かれる。 どうする上島祐樹。考えろ、聡美と二人で逃げおおせる方法を考えろ。 初音とこのまま追い駆けっこしてたら負ける。 なら初音を走らせなくすれば良い。どうやって? それとも俺と聡美の走る必要がなくなれば良い? 考えろ考えろ、時間は有限だ、そこまで初音は迫って来てる、追い付かれたら負けだ。 ……良し、後者を選ぼう。 走っている場所は高等部グラウンド。サッカーのゴールにバスケのゴール、鉄棒がある。 教室に入るにはまだ距離がある。 ならば。 「初音、よーく聞けぇーーーーーッ!!!」 「何ぃーーーー!? 投降するぅーーーーーー!?」 今更だがこんな大声出してて近所迷惑にならんのだろうか。 「聡美が、聡美が死にそうだーーーーーーーッ!!!」 「マジでーーーーーーーッ!?」 「見てわからんかおのれはぁーーーーーーッ!!!」 やば、マジで腹痛い。泣いて良い? 「ちょ、マジで!?」 「聡美、しっかりしろ、傷は浅いと思うぞ、多分!」 俺と初音が走るのをやめると聡美がその場に座り込んでしまった。 「……お、お腹が、い、痛くて……気持ち悪いですぅ……」 末期症状だ。顔も真っ青。 俺と聡美(と言うか主に聡美の為)に取った策だが、間違ってはいなかったようだ。 初音と一緒に聡美を保健室に連れて行く。 「あらら。走り過ぎで貧血ね。しばらく寝てれば良くなるわ」 保険医のエマ先生、ナイス。 これでしばらく休める。 が、ここで飛んだ誤算が。 「なんでお前桂治追っ駆けないんだよ」 「いやいや、あたしチャンスは逃さない主義だから」 初音も保健室で一休みと言う所だ。 まさかこう来るとは思わなんだ。 「聡美起きるのまだ先だぞ?」 「祐くんは動けるでしょ?」 最初から俺狙いかこんちくしょー。 「でも、ここら辺で捕まっておいた方が良いよ。最後に捕まると罰ゲームだから」 「それはそうだけど……」 「時には引き際も肝心なんだよ、ゲームは」 初音が俺にそう論じている間に、外を何かが走って行った。 「待って下さ〜〜〜〜〜い」 「待てるかーーーーーーーーーッ!!!」 静音さんと桂治だ。 静音さん、息切らしてなかったよな、今。 「ほらほら、早くしないと大ピンチだよ」 ニヤリと唇を歪ませる初音。くそぉっ! 「わかった。聡美共々降伏する」 「はい、タッチ! 聡美ちゃんもタッチ!」 これで俺と聡美も鬼だ。残るは桂治ただ一人。 「あいつ、本当についてないな」 「運が悪い日はとことん悪いからね」 「それにしても……」 まるで死んだように眠る聡美を見て言う。 「聡美って、本当になんの病気なんだ?」 「実はあたし達も知らないんだよ。ろくでなし兄貴も話さないし」 「ふーん……」 「でも、さ」 「ん?」 「きっとどんな事があっても、あたし達は友達だよ」 そう言って笑った初音の顔を直視して、思わず赤面してしまった。 台詞は青臭い。でも……温かい。 そうだ。友達なんだ。どんな事があっても、どんな時でも。 「そうだな……」 例え離ればなれになっても。誰かが欠けたとしても。 「みんな、友達だ」 「祐くんもやっとここに慣れたって感じで、あたし嬉しいよ」 「そりゃどうも」 「初音ちゃーん、桂治君捕まえたよー」 どうやら桂治が捕まったらしい。 「わかったー、観音も連れて保健室来てー」 「はーい」 さてさて、気の毒だけど桂治にはもう一度地獄を見てもらいますか……。 |