夏に咲く紅の花/第十話:三日目C







夏に咲くの花








「待て待て待てーい!!!」

「待てと言われて待つ阿呆がいるかーーーーッ!!!」

「う、上島君……ちょ、待って下さいぃ……」

ありえない。
何故初音が鬼に?
しかも何故あんな所をピンポイントで探しに来る?
聡美は体力がないのですぐにへばった。足は速いんだけど。

「祐くーーーん、さとみーーーん、待てぇーーーーーーッ!!!」

「さとみんってなんだ、さとみんってぇーーーーーーーッ!?」

「聡美ちゃんのあだ名ぁーーーーーーッ!!!」

「……」

聡美が虫の息だ、やばい。
ついでに俺もやばい。腹痛い。
初音は依然として全力疾走中だ。追い付かれる。
どうする上島祐樹。考えろ、聡美と二人で逃げおおせる方法を考えろ。
初音とこのまま追い駆けっこしてたら負ける。
なら初音を走らせなくすれば良い。どうやって?
それとも俺と聡美の走る必要がなくなれば良い?
考えろ考えろ、時間は有限だ、そこまで初音は迫って来てる、追い付かれたら負けだ。
……良し、後者を選ぼう。
走っている場所は高等部グラウンド。サッカーのゴールにバスケのゴール、鉄棒がある。
教室に入るにはまだ距離がある。
ならば。

「初音、よーく聞けぇーーーーーッ!!!」

「何ぃーーーー!? 投降するぅーーーーーー!?」

今更だがこんな大声出してて近所迷惑にならんのだろうか。

「聡美が、聡美が死にそうだーーーーーーーッ!!!」

「マジでーーーーーーーッ!?」

「見てわからんかおのれはぁーーーーーーッ!!!」

やば、マジで腹痛い。泣いて良い?

「ちょ、マジで!?」

「聡美、しっかりしろ、傷は浅いと思うぞ、多分!」

俺と初音が走るのをやめると聡美がその場に座り込んでしまった。

「……お、お腹が、い、痛くて……気持ち悪いですぅ……」

末期症状だ。顔も真っ青。
俺と聡美(と言うか主に聡美の為)に取った策だが、間違ってはいなかったようだ。
初音と一緒に聡美を保健室に連れて行く。

「あらら。走り過ぎで貧血ね。しばらく寝てれば良くなるわ」

保険医のエマ先生、ナイス。
これでしばらく休める。
が、ここで飛んだ誤算が。

「なんでお前桂治追っ駆けないんだよ」

「いやいや、あたしチャンスは逃さない主義だから」

初音も保健室で一休みと言う所だ。
まさかこう来るとは思わなんだ。

「聡美起きるのまだ先だぞ?」

「祐くんは動けるでしょ?」

最初から俺狙いかこんちくしょー。

「でも、ここら辺で捕まっておいた方が良いよ。最後に捕まると罰ゲームだから」

「それはそうだけど……」

「時には引き際も肝心なんだよ、ゲームは」

初音が俺にそう論じている間に、外を何かが走って行った。

「待って下さ〜〜〜〜〜い」

「待てるかーーーーーーーーーッ!!!」

静音さんと桂治だ。
静音さん、息切らしてなかったよな、今。

「ほらほら、早くしないと大ピンチだよ」

ニヤリと唇を歪ませる初音。くそぉっ!

「わかった。聡美共々降伏する」

「はい、タッチ! 聡美ちゃんもタッチ!」

これで俺と聡美も鬼だ。残るは桂治ただ一人。

「あいつ、本当についてないな」

「運が悪い日はとことん悪いからね」

「それにしても……」

まるで死んだように眠る聡美を見て言う。

「聡美って、本当になんの病気なんだ?」

「実はあたし達も知らないんだよ。ろくでなし兄貴も話さないし」

「ふーん……」

「でも、さ」

「ん?」

「きっとどんな事があっても、あたし達は友達だよ」

そう言って笑った初音の顔を直視して、思わず赤面してしまった。
台詞は青臭い。でも……温かい。
そうだ。友達なんだ。どんな事があっても、どんな時でも。

「そうだな……」

例え離ればなれになっても。誰かが欠けたとしても。

「みんな、友達だ」

「祐くんもやっとここに慣れたって感じで、あたし嬉しいよ」

「そりゃどうも」

「初音ちゃーん、桂治君捕まえたよー」

どうやら桂治が捕まったらしい。

「わかったー、観音も連れて保健室来てー」

「はーい」

さてさて、気の毒だけど桂治にはもう一度地獄を見てもらいますか……。









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