夏に咲く紅の花/第一話:一日目@
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夏に咲く
紅
の花
「やっぱ都会って空気悪いの?」
「おう、ここと比べるとありゃ排気ガスだな。よくあんな所で暮らしてたなって関心するよ」
「祐樹君はここに来たばっかの時はつんつんしてましたけど、今じゃまんまるになってますよね」
「空気が良いと人も良いし性格も良くなるってね」
「……祐樹、それは何か違うと思う」
放課後、俺達は例によって教室(高校棟1-A)に集まっていた。
一年の初音が部長の『遊戯研究部』だ。
内容はただ遊ぶだけ。
トランプやら人生ゲームやら外行って山行ったり川行ったり海行ったり。
とにかく遊ぶ。それが主旨の部活なのだ。
うちの学校には基本的に部活と言う概念がない。
どこの高校にだってある野球部やサッカー部だってない。
やるような無駄に広い土地があるなら、田んぼにした方が良い。
「で、何をすんだよ。結局」
現在時刻午後二時半過ぎ。部活動をするには時間があまっている。
「ん〜、じゃあね。今日は久しぶりに天女川行って魚釣りって言うのはどう?」
部長である初音がどこか挑戦的な口ぶりで言った。
確かに一週間前、川に行こうとした日は雨で川の水が増水していたため中止になった。
まだ一度しか川に魚釣りへ行ってないので、一ヶ月近く前のリベンジが出来る。
「俺は良いぞ」
「私も構わない」
「それでは決まりですね」
観音ちゃんと静音さんも合意したので川に行く事になった。
今現在うちの部員は六人だ。
後二名は用事があるらしい。
「せんせー、釣り道具借りて行っても良いですかー?」
「溺れんなよー」
初音の言葉に反応した男性教師は借りるとかをすっ飛ばして身の危険に対する心配をしているようだ。
まぁ、いくら高校生って言っても自然には勝てないからなぁ。心配するのも当然だ。
「んじゃ、行こうか」
俺、初音、静音さん、観音ちゃんがそれぞれ一本の釣り竿を持った。
そんで何故か俺は他の荷物も持たされていた。
「……あのー初音さん?」
「何、祐くん」
「俺の荷物だけが多いのは気のせいか?」
「気のせいでしょ?」
「……極悪初音」
「何か言った? 観音」
「別に何も……」
鋭い視線で睨む初音をまるで闘牛士の様に受け流す観音ちゃんは素直に凄いと思う。
「今日はお魚いっぱい釣れると良いですね」
手の平を合わせて静音さんが言った。
いっぱい釣れたら今日の夕飯は上島家、長谷川家共に魚パーティーだ。
学校の門を通ってそのまま道を真っ直ぐ。
田んぼのあぜ道を歩いて突き当たりを左に。
少し行くと下り坂になっており、民家も見えて来る。
道の隅にある溝は案外深く、幅もそこそこ。
何でもここで釣りするとドジョウとかが釣れるらしい。
因みに何故これが深いのかを知っているかと言うと、初日に初音に落とされた。
あの時は印象が最悪だったが、付き合って見れば元気いっぱいで回りを振り回しているお転婆娘だった。
今でも充分お転婆だけど。
「ほら祐くん、遅れてるよ?」
初音が早く来い、と俺を促す。
更に坂を下り、道路沿いを歩く。
するともう川が見えて来る。
「んじゃ、一番大きいの釣った人か多く釣った人が勝ちね!」
何でも勝ち負けを付けたがる彼女が我先にと川岸に駆けて行った。
「初音ちゃんっていつも元気いっぱいなんだから」
「……それが初音の長所で短所」
流石三姉妹。俺なんかが言うよりも言葉の重さが違う。
観音ちゃんは一言言うとツインテールにしてある黒髪を撫で上げた。
三姉妹は全員髪型が違う。
静音さんは三つ編みにしている事が多い。
初音は髪を下ろしているかポニーテールにしている。
観音ちゃんはツインテールだ。
……それにしても初音のやつ、バケツと餌なしでどうやって魚を釣るつもりなのだろうか。
「あーっ、餌がない! 祐くん早く持って来てー!!」
「やっぱりこうなるんだな……」
「……前言撤回。長所じゃなくて短所。長所は要領の良さだけ」
俺と観音ちゃんは深く溜息を吐いた。
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