・5/28 (日)


「祐理ねぇ、これ何だ?」

「カレー……のつもりだったものだ」

「しょっぱいよぉ」

「塩分過剰……肌荒れの原因」

「ユリ先輩、いくらなんでも擁護しようがないんだけど」

「あらあら」

「うぅ……」

悔しそうに唸る祐理ねぇ。
今日の夕飯は久しぶりに祐理ねぇが作る、と聞いて心配していたんだけど……案の定、失敗だった。
お菓子作りはプロレベルなのに、どうして料理ができないんだろう、祐理ねぇ。

「いや、最初はちゃんとレシピ通り作ってたんだぞ?
でもな、皆の好みに合わせようとしていたら段々味が……」

俺と楓は濃い味が好きで、鈴とレアは薄い味が好みだ。
母さんはどっちも行けるみたいだけど……カレーは一口食べたきりだ。

「お菓子は上手いのに、料理は駄目。ユリ先輩って極端ですよね」

「うぐぅ……」

レアの言葉が祐理ねぇに突き刺さる。本当に容赦しないなこいつは。
楓は頑張って食べようとしているが手が震えている。
鈴はカレーを親の仇と言わんばかりに睨んでいる。
……一瞬で場をカオスの渦に巻き込むのは相変わらず凄いな。

「しょうがないから、俺が作り直すよ。まだ皆腹減ってるんだろ?」

「すまない……」

「良いって、極端なのが祐理ねぇらしいんだから。
今度練習しよう、な?」

「……うん」

上手くフォローできたのか、祐理ねぇの顔が少し明るくなった。
……いきなり変わる事はないさ。ゆっくり変われば良い。
そんな事を思いながら、俺はキッチンに向かった。




・補足
またまたTTEOWキャラのパラレルものです。
今回はある意味本命の祐理ねぇ話。
基本的な特徴はTTEOWと同じです。
何気ない日常の一コマ、水無月家の日常と言う事で一つ。



・5/27 (土)


「右です」

ばし、と快音が響いた。
柚姫は額に汗を浮かべながらも更に目を鋭くして次の獲物を凝視する。

「右、右、左、右、左、左、左、左、右」

その手につけたグローブが目にも留まらぬ速さで目標を打ち抜く。
人間は、声に出して行動した方が確実に仕事をこなす事ができる。
つまりは、柚姫は今マジだって事だ。

「……終わりました」

ふー、と一息吐いて柚姫が俺を背もたれにしてよっかかった。
ほんのりと香るシャンプーに匂いに、心臓の鼓動が早くなる。

「運動不足かもですね……疲れました」

「そりゃあ、あんな全力でパンチングマシーンやれば疲れるって。
それに退院したばっかなんだからもう少し安静にしないと」

退院即日にデートはやっぱ負担が大きい。
ふぅ、ともう一息吐くと柚姫が言った。

「それは、そうなんですけど。
ただ……その、かーくんを先輩や楓さんに取られなくないって言うか、その」

恥ずかしそうにモジモジしながら言う柚姫が可愛い。
つまり、俺が誰かに唆されない為に無理したって事か? ……俺ってそんなに浮気しそうに見えるんだろうか。

「かーくんは誰にでも優しいからダメです。でも……そこが良い所なんですよね」

「ただの自己満足だぞ、俺のは」

「良いんです、皆がそう思っているから、それが真実なんですよ」

そう言って柚姫は俺の手を引いて言った。

「帰りましょう、かーくん」

……惚れた弱みって言うか、惚れてから強気になったのか。
柚姫に手を引っ張られながら、俺は帰宅した。




・補足
読んでる人がいるかどうかは知りませんが、これはうちのTTEOWキャラを使ったオリジナル学園ものの未来派生した世界の一つです。
つまりはショウ×ユキです。
ショウ→翔、ユキ→柚姫。
ユリはカエデの姉と言う設定で、ユリ→祐理、カエデ→楓。
リン→鈴、カナメ→かなめ、となります。
本編書かずに妄想膨らませてるんじゃねぇ! と思う方もいると思いますが許してください。
むしろ本編は今見ると「これもう補正かけられねぇよ、どうしろと?」な感じなのです(ぉ
ちなみに翔×祐理なお話もあったり。これが一番まともなお話なのは秘密です。
例の中篇はこれとは完全別物なのでご注意を。



・5/21 (日)


あれから、私は取り合えず碇君を歓迎する意を込めて珍しく夕食を自炊した。
この間調理実習で作ったご飯とお味噌汁、ホウレン草のおひたしに焼け鮭。
……豆腐の形が崩れてしまったけれど、碇君は美味しい美味しいと食べてくれた。
そして、今。
後回しにしていた寝床の問題が再発してしまった。
私の家にはベッドが一つしかない。布団はない。
碇君も一緒にベッドで寝れば良いと思うのだけれど、"それは駄目だよ!"と否定されてしまった。
では、どうしようか。
碇君は当然、布団なんて大きな物は持ってきていない。
うちには、布団もなければベッドも一つしかない。
どうしよう……。

「……じゃあさ、綾波。僕は床で寝るよ。居候の身だから我侭言えないしね。
それに綾波にこれ以上迷惑かけるといけないからさ」

「碇君……」

それは悲しい。碇君の生活改善の為に申請したのに、これでは意味がない。
どうしよう、どうしよう、どうしよう……。




夜は更けて、私は上体を起こした。
……結局、碇君に押し切られて碇君は床に寝る事になった。
取り合えず予備のシーツを渡したのだけれど、やはりちゃんとした場所で寝てもらいたい。
……それにしても、シャワーを浴びた後の碇君の動揺した姿を見たのは二度目だった。
"お風呂上りにはすぐに服をきないと駄目だよ"と碇君に言われた。どうもそれが一般常識らしい。
碇君は男で、私は女……そう、自制しているのね。
私は碇君の姿を探した。結局、私が先に寝てしまったのだ。
碇君は、壁を背もたれにして寝ていた。
寒いのか、シーツを体に巻きつけている。
私は碇君の隣に座って、体を寄せてシーツを羽織った。
……これで、寒くない。それに平等だ。
碇君の呼吸と、心音と体温が私を眠りへと誘う。
―――お休み、碇君。



・5/18 (木)


今日は碇君が隣にくる日だ。
昨日の内に掃除はしておいたし、きっと碇君は前より気に入るはずだ。

「えっと、その、綾波。あの、凄く言いにくいんだけど……」

早速きた碇君が困ったようだ。先住民として私が指導しなければ。

「どうしたの」

「あの……辞令に"綾波二尉と同居する事を任命する"って……」

「……!?」

まさか、赤城博士の策謀だろうか。
碇君に辞令を見せてもらった。
そこには確かに、

『任命書:本日○月×日、碇シンジ二尉の住居変更要請について。

理由、経緯:前監督者であった葛城ミサト三佐、および同居者であった惣流・アスカ・ラングレー二尉を要因としたトラブルが発生。
同日、技術部顧問赤木リツコ博士からの要請を元に調査した。
前同居者二名は碇二尉に対し、家事のほぼ全てを任せながらもケチを付けると言う精神的苦痛を与えていた事が判明。
昨日21:42。チルドレンとしての精神的マイナス要素は避けたいと言う赤木博士の要請を容認。 同パイロットである綾波レイ二尉との同居を赤木博士が申請。
相性の合うパイロット同士の意思疎通によるシンクロ率上昇、実験レベルの強化が図られると言う理由で申請を容認。

明日6:30を持って葛城三佐を碇二尉の監督義務より開放、碇二尉の監督義務は赤木博士に移行するものとする。
碇二尉は綾波二尉と同居する事を任命する。
尚、これは碇総司令から発行された任命書であり、拒否する事はできない』

と、書いてあった。
……赤木博士に謀られた。
けれど、これはこれで良いかもしれない。碇君と衣食住を共通するメリットは必ずあるはず。
それに赤木博士に監督義務が移ったのなら、葛城三佐やセカンドの意向で無理矢理碇君をあそこに戻す事はできない。
赤木博士が何を謀ろうとしているのかはわからなけれど、私にとってはまったくもって問題ない。
うん、逆に嬉しい事だ。碇君と共に過ごす時間はきっと素敵だろう。

「えっと、これ。綾波の辞令」

はい、と碇君に手渡された辞令には私に関する事が書いてあった。

『任命書:本日○月△日、綾波レイ二尉への要請。

碇二尉へ対する精神的苦痛を和らげる為、綾波二尉宅に碇二尉を同居させる事を任命する。
監督義務は赤木博士に一任するものとする。
尚、これは碇総司令から発行された任命書であり、拒否する事はできない』

碇君のそれと比べればかなり短い文章だが、碇指令の事だ。きっと途中で面倒になって書くのを止めたに違いない。
それはともかく、これは本当に嬉しい。公に同棲である。
しかし困った事がある。
そう、寝場所だ。私にはベッドがあるから良いのだが、碇君のベッドがない。
布団を敷こうにも布団がない。
……どうしよう。



・5/17 (水)


「あぁもうバカシンジ! どうしてお風呂の設定温度間違えるンのよ!
もう少しで火傷するところだったのよ!?」

「そんなに言うなら自分でやれば良いじゃないか!
僕は朝ご飯だけじゃなくて二人の着替えとか弁当まで用意してるんだよ!?
労われる事があっても貶される覚えはないよ!」

碇君とセカンドがいつものように喧嘩している。
葛城三佐の言う所だと、どうも碇君がセカンドの"朝風呂"の設定温度を二℃間違えたらしい。
普段どの温度で入っているのかはわからないけれど、セカンドの言い分は自分本位だ。

「今日は言うじゃない、臆病者! 良いわよ、そんなに言うなら明日から自分でやってやるわよ!
あんたの力なんて借りなくても、私はちゃんとできるんだから!」

「あぁそうかよ、ならもう良いじゃないか!
今後一切僕はアスカの面倒見ないからね! 朝もちゃんと起きろよ!
ミサトさん聞きましたよね!? アスカは明日から全部自分でやるそうですよ!
だから今日の夕飯の支度は二人分だけにしましょう! 全部自分一人でやるそうですからね!」

碇君がこんなに怒っているのは見た事がない。
普段、彼は大人しめで自分の気持ちを素直に伝えないけれど、今回ばかりは"堪忍袋の緒が切れた"ようだ。




「アスカとシンジ君が?
……まぁ、遅かれ早かれこうなるのは目に見えていたけれど、シンジ君もよく耐えたものだわ」

定期検診の時、先ほどの出来事を赤木博士に言ったら溜息混じりの返答が帰ってきた。

「シンジ君は心の奥底で嫌がっていても、強い相手には従ってしまう処世術で今まで耐えてきた。
けれど、人間の心にだって許容できる事とできない事がある。
最近は特にアスカの我侭が酷かったから、流石のシンジ君も今回の事で限界だったのでしょうね。
まぁ、原因はアスカの我侭なのだけれど」

『まったく、困ったものね』と片手間で私の検診を終わらせて、赤城博士がぼやいた。
……そう、セカンドは碇君の負担にしかなっていないのね。

「赤木博士」

「何、レイ。検診は終わったから帰って良いわよ」

相変わらず淡白な対応に私は動じず、ただ要所を伝えた。

「碇君の住居を私の部屋の隣に変えて下さい」

「……え?」

「セカンドは元より、監査役の葛城三佐も機能をしていません。
これ以上碇君に負担をかけるのはエヴァパイロットとしても、健康面でも良くありません。
だから、静かな私の部屋の隣に碇君の住居を移して下さい」

「……」

しばらく私を凝視し、何かを考えるように口元に手を当てて赤来博士が言った。

「わかったわ。明後日には住居変更の辞令をシンジ君に出せるよう、申請しておくわ。
今日はもう帰りなさい」

簡単に赤木博士は了承した。怪しい、何かある。
ただ、隣に碇君が住むと言うのはとても嬉しい事だ。
そうとわかれば、まずは部屋の掃除だろう。
私は喜々として帰宅した。



・5/15 (月)


絶対的な暴力が、奴に迫った。
が、奴はそれを紙一重で避けると流れるような斬撃を暴力の主に見舞う。
暴力の主……角竜ディアブロスは脚を裂かれ、体勢を崩す。

「ボケッとしない! トドメ!」

奴の声で俺はようやく動く事ができた。
俺は重い体を引きずって、ディアブロスの頭に向かって氷結剣・フロストエッジ改を突き立てた。
耳を劈くような断末魔を上げ、暴力の主は完全に息絶えた。




「いや、危なかったねあれは」

「俺に命令しておいて何言いやがる。そもそもお前は一撃も貰ってないだろうが。
俺はきついのを喰らってしばらく療養生活だぞ?」

「そりゃあんたが闇雲に突っ込んで行くからでしょうが。
角で串刺しにされなかっただけでも僥倖ってもんでしょうに」

相変わらずの減らず口を叩いた奴……カレンは少し寂しそうに言った。

「あんたが死んだら村の人達が悲しむんだから、少しは慎重に行きなさい」

あまりにも真剣な目で訴えられたので、俺は何も言えなかった。
よくよく考えれば、なんでこいつはモンスターハンターなどと言う危ない職業をやっているのだろう?
俺は何やっても駄目な奴だったし、一番性に合うのがこれだったのだ。
が、こいつはポッと出で現れて、凄まじい努力を重ねてあっという間に俺を追い抜いた。
どうして、そんなに必死になる?
何か野望でもあるのだろうか。
そんな事を考えていると、カレンがぽつりぽつりと語り始めた。
二人だけのキャンプで、奴の声だけが綺麗に響く。

「昔、ある所に小さな村がありました。
その村は小さくても活気に溢れ、いつも人が笑っている村でした。
けれど、幸せな時間は一瞬で失われてしまいます。
不吉の予兆は、黒い怪鳥だったのです」

まるで昔話を語るような、淡々とした口調だった。
遠い空に輝く月を見上げ、奴は更に続けた。

「黒の怪鳥、黒狼鳥は貪欲で残酷でした。
村はたった一体の黒狼鳥に滅ぼされ、その村は地図から消えてしまいました。
村人は全て食べられ、殺されてしまいました。
けれど、一人だけ生き残りがいました。それは一人の女の子でした」

もしかして、こいつは自分の過去を語っているのだろうか。
黒狼鳥、イャンガルルガ。
ここ数十年前に発見された比較的新種の飛竜で、どうもイャンクックとリオレイアの混種と言う説が有力だ。
その凶暴さはオリジナルのクックやレイアを遥かに上回り、とにかく好戦的で残忍。
街……ドンドルマも何度か襲撃を受けた事があるらしい。

「女の子は、復讐を誓いました。
絶対に許さない、家族を、友達を、故郷を滅ぼした黒狼鳥を許さない。
女の子は、ハンターになりました。
女の子の家に代々伝えられてきた刀を背負い、彼女は色んな竜を狩りました。
ある時、少女はある雌火竜を狩る事になりました。
しかし、その前には因縁の敵である黒狼鳥が雌火竜と戦っていたのです。
雌火竜には、赤ちゃんがいました。
まだ生まれたばかりで、甲殻も柔らかい、親の助けなしでは生きていけない存在です。
女の子は、迷いました。
クエストの為に雌火竜を狩るか、因縁の黒狼鳥を狩るか、雌火竜を援護するか。
……女の子は、雌火竜を援護しました。
雌火竜と共に、黒狼鳥を撃退したのです。
しかし、子供は全滅し、雌火竜も虫の息でした。
女の子は必死に助けようとしました。
持っている道具を使って、止血をしました。副木をしました。薬を塗りました。
けれど、雌火竜は助かりませんでした。
女の子は、更に黒狼鳥を恨みました、憎みました。
けれど、それから一度もその黒狼鳥には遭えませんでした。
長い年月が経ち、女の子は少女になりました。
その頃にはもう、黒狼鳥に対する憎しみは薄れていました。
しかし、再び黒狼鳥と出遭った時。
少女は、果たして正気でいられるのでしょうか?
自分を失わず、一人のハンターとして対峙できるでしょうか?
少女の戦いはまだ、終わりません」

長い話だった。
家族を殺された恨みでハンターになり、長い年月が奴をハンターに染めたのか。
カレンは申し訳なさそうに言った。

「一人ごとだからあんま気にしないで。
もう寝た方が良いよ。起きたら村に着いてる」

そう言う奴に、俺は言った。

「その少女とやらは、大丈夫だろうよ」

「え?」

「自分がどうなるか怖いって思っているなら、それだけ自分を保てる。
どれだけ憎んでいても、きっと一人のハンターとして奴と対峙できるだろう」

「……ありがと」

「何礼を言ってるんだお前は。俺は見知らぬ少女に言ったんだ。凄腕ハンター様には言ってないぜ?」

「……そうだね、うん。でもきっとその女の子は心の底で思ってるよ。
"少しだけ楽になった"って。"ありがとう"って」

「俺が言ってやったんだから礼を言われるのは当たり前だ」

「そっか」

柄でもない、そう思ったが何故か嫌な感じはしなかった。
少女が黒狼鳥と出遭った時、その時に少女のハンターとしての質が試されるだろう。
だが、俺には知ったこっちゃない。
だが、同業者として少しは心配してやろう。
……手を握るくらいなら、許す。うん。



・5/14 (日)


雨だ。
しとしと振り続ける雨のせいで、私はこれ以上なく憂鬱だった。
家事はお菓子作り以外ジュンがやらせてくれないし、今日は日曜で稽古もない。
ついでにテレビも面白いのがやっていない。実につまらない。

「で、何かなユリ?」

「暇潰しがしたい」

「うん。で?」

「プロレスだ、丁度良い運動になる」

「その手に持ってる木刀は何かな?」

「ジュンの手がたまにやらしいからな。迎撃用に」

そういうとジュンは深くため息を吐いた。
む、ため息吐きたい程憂鬱なのは私なのに。

「はいはい、じゃあ手合わせ願いましょうかお姫様?」

「絶対に負けないぞ?」

そして私はジュンに飛び掛って―――




「何やってたんですか、師匠(せんせい)

私の腕や脚に湿布を張りながらショウが聞いてきた。
未だに少し体が重い。やはり無理はするものではない。
ジュンと二人で技の掛け合いをしていたのだが、変な風に腕や脚がこんがらがってしまって、つまり。
やはり、無理矢理引き剥がした方が早かったな、ジュン?

「ジュンさん、どうしたんですか? そのホッペ」

「あはは、まぁ、その……一足早く紅葉をね……」



・5/11 (木)


俺は、ハンターだ。
何を狩るかって?
そりゃ決まってる、モンスターさ。
俺がいるのはジャンボ村と言う小さな村だ。
村長は俺と大差ない若造、そしてこの村にはもう一人ハンターがいる。
そいつの憎たらしさったらもう、どうしようもない。
ある時ひょこっと現れたかと思えば、あっと言う間に俺を出し抜き古龍まで討伐しやがった。
最近は別の村に外出する事が多いようだが、相変わらず口が減らない女だ。

「"ショウグンギザミ"?」

「はい、丁度クエストがきてるんですよ。行きます?」

酒屋兼受注所の看板娘――名前は忘れた――が首をかしげながら言った。
どうも最近、火山でショウグンギザミだとか言う甲殻種……つまり蟹がはびこっているらしい。
紅蓮石掘るのに邪魔だから討伐してくれ、と。つまりそういう事だろう。
ふむ、蟹か。
大型甲殻種と言えばダイミョウザザミが有名だろう。
あいつの子であるヤオザミのザザミソは格別だ。
将軍様とやらも、どうも子蟹を引き連れているらしい。
名前はガミザミか。変な名前だ。
……甲殻種はたかが蟹。飛竜と比べれば月とすっぽん、鯨とミジンコだ。
ふ、火山を鎌蟹の蟹ミソと体液で茶と青のコントラストで彩ってやるぜ。

「あぁ、行こう。受注を頼む」

「はい、わかりました。では受注金を―――」




甘かった。
いや、蟹ミソが甘かった訳ではない。
俺の考えが甘かった。
どうせ大名と同じだろうと、ハンマーなんかで行くから駄目だったのだろうか。
いや、違う。そもそも根底から間違っていたんだ、こんな奴を相手するなんて。

「なんで鋏伸びてんだお前はーーーーーーッ!!!!!??????」

そう、伸びた。鋏が。
数十分前の事だ。
俺は火山に到着するや否や、早速鎌蟹探索を始めた。
青い子蟹……ガミザミと遭遇して討伐し、サブターゲットを達成したりとなかなか幸先の良い雰囲気だった。
火山に潜入し、俺は早速奴を発見した。
巨大で重厚なグラビモスの頭殻をヤドにした青の甲殻種……ショウグンギザミ。
大名より姿形はなかなか凶暴な感じだが、見た所違うのは外見だけのようだった。
差し足抜き足忍び足、上手く後ろに回りこんで俺は渾身の一撃をヤドに入れた。
鈍い音と共に、頭殻が陥没した。が、それだけだった。
流石はグラビモスの頭殻と言った所か、これくらいで壊せたのが僥倖だろう。
そして、更に一撃を加えようとしたその瞬間、俺はとても嫌な音を聞いた。

しゃきーん!

ちょっと待て、『しゃきーん!』ってなんだ、生き物の出す音か?
そう思う前に、将軍は容赦なく鋏を凪いだ。
俺は体勢を低くしてなんとか避けた。が、次に見たものはつまり―――

「おかしい、おかしいぞ、絶対におかしいぞぉーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!」

そう、何故か伸びている将軍の鋏だった。
その後俺は命からがらキャンプまで戻り、サブクリアと言う事で村へ逃げ帰った。




「あぁ、将軍様? あたしもアレ嫌いなのよ」

久しぶりに帰ってきたあいつ……カレンに俺は将軍について聞いてみた。

「あいつの怒り時のリーチはかなりヤバイわよね、うん。あたしも苦手」

「じゃあ、お前はどうやってアレを討伐したんだ?」

「んとね、あそこって爆弾岩あるじゃない? あれに誘導して鋏ぶっ壊してから口刺した」

なんとアバウトな。しかも普通の女が『口刺した』などと言える訳が……そうか、奴は凄腕ハンターだった。
しかし、なるほど、爆弾岩で鋏を壊す、か。
速度そのものが大名と大差ない。問題はあの鋏だけだ。
ふむ、一考の余地はあるな。

「でもね、うん。一つ忠告」

「なんだ?」

「近くに子蟹がわんさかいるから気をつけて」

さーっ、と血の気が引く音を俺は初めて聞いた。
あの厄介な子蟹と更に将軍だと?
だがあの時は何も……。

「今、繁殖期じゃない? 子供守ろうと親も必死だし、子供も生存競争生き抜く為に必死なんだよね。
ついでに言うと、爆弾岩は温暖期が旬」

つまり……また温暖期まで待てと?
そんな、俺のリベンジは……。

「あと三ヶ月くらい待ちなよ、男なんだからさぁ」

「うるさーーーーーーーーーーい!!!!!」



・5/10 (水)


ユリの素振りはとても痛い。
初めて喰らった時はもう、死ぬかと思ったね。
いや、わざと当たりに行った僕もいけないのだけど。
で、ユリは延々と素振りをする。
それはもう、一度始めたら無我の境地。空腹に陥るまでは絶対に止めない。
で、その空腹を満たす役が僕なんだけど……。

「む、どうしたジュン」

「いや、なんでもないよ」

ほっぺにご飯粒付けて白米を頬張る彼女を見るのは、僕の特権だ。



・5/9 (火)


与吉「さて、倒した銀(シルバーソル)剥ぎ取るか」

『銀火竜の翼を入手しました』

与吉「お、翼だ。ラッキー」

『銀火竜の翼を入手しました』

与吉「おぉ、なんか凄いぞ」

『銀火竜の翼を入手しました』

与吉「ちょっと待て、お前の翼は奇数枚あるんか!?」

(報酬画面)『銀火竜の翼×2』

与吉「二対一枚の銀火竜……?」

※実話です。



・5/8 (月)


カエデ「ふっかーつ!」

ショウ「長かったな……一ヶ月ちょいか」

カエデ「三月下旬のバックアップなくした時の管理人さんの顔笑えたねー」

ショウ「いや、笑えないだろ。うちの最初のサイトスタイルが完璧に吹っ飛んだんだぞ、元祖Till The End Of World.が」

カエデ「じゃあ、あれってもう」

ショウ「そう、幻の1stスタイルだ。あんなのをコピーした奴なんぞいないだろうに」

カエデ「……ついでに神音も消えちゃったんだよね?」

ショウ「あぁ。綺麗さっぱり黒歴史入りだ」

カエデ「で、今書いてるのはいつ書き上がるの?」

ショウ「年内目標らしい。やっぱ三月下旬のバックアップディスクがなくなったのは痛いな」

カエデ「でも書き直せてよかったね?」

ショウ「それだけが救いだな……」



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