俺は死を恐れない。

何故なら、もうすぐやってくる運命だから。






目覚めたくないのに起きて

俺は道を歩く。


街にでると電気屋の前の大きなテレビで

誰かが殺された事件とかがやっている。

もう、そんなものに興味はなくなってしまった。



俺は病気らしい。

もう、治らない。


幸いなことに、俺は別れを惜しむ彼女なんていないから

悲しむことなんて何もない。

きっと、俺が消えてしまっても誰も何も思わないだろう。




俺は、空気が吸いたくなった。

穢れた大人達がたくさんいる街ではなくて、自然の中の。


ふっとそのまま立ち止まってテレビの特集を眺めているときだった。

すごく綺麗な公園がうつっていて、電車1本で行ける近さだった。

この後の予定もない。

俺はゆっくり歩きながら電車に乗った。


着いてみると、本当に綺麗なところだった。

ただ、気になったことがあった。

幸せな2人組がたくさん歩いていたりして、とても居づらかった。


俺は横目で見ながらベンチに座った。



「・・・。くーん・・・。・・・。」


俺はビックリして後ろを向いた。

が、誰もいない。

気のせいだろうか?

けど、その声・・・というか音はずっと続いていた。

ベンチの下を覗くと、ダンボールが置かれていた。

中には真っ白い、耳がピンと立った小さな犬が伏せしていた。


手を近づけてみると、その犬はぺろぺろと指先をなめてくれた。


「・・・。おい、どうしたんだよ。こんなところに。」

「くーん・・・。」


犬は申し訳なさそうな顔をして、すぐしっぽをふった。

俺はつい笑ってしまった。

と同時に、あたりを見回した。


飼い主らしい人物は、いない。

そして、ここにきた人達は見て見ぬふりして去っていったんだろう。


「お前、俺に似てるな。」


俺は誰にも聞こえない声で言った。





それから俺は、毎日その犬に会いにいくようになった。

時にパンを持っていったり、ソーセージを持っていったり。


死を恐れていなかったのに、最近怖くなってきたのがわかった。


けど、俺は犬が忘れられなかった。


ある日行くと、いつもいるところとははるかに違う所に犬が倒れていた。

目が点になって、何も考えられなくなった。

その周りには何組かのアベックがいた。


俺は犬の所まで走った。

「ぉぃ!どうしたんだよっ。目あけろよ!!」

身動きしない犬。

いつもしっぽをふって、指先をなめてくれて、あんなに元気だったのに。


「ぁーぁ。かわいそうに。さっきからあそこにいたもんね。あの犬。」


近くにいた女が言った。

その横には彼氏だと思われる男もいた。


「・・・。なん・・・・」

「何?聞こえないんだけどぉー。」

「何で知ってたなら病院に連れて行かなかった!!」


女は目を丸くさせて、俺を睨んだ。


「ちょっとぉ。変なこと言わないでよ。」

「そうだよ。さっきからそこでくたばってたわんころがいけないんだからさ。」


俺の中で何かが切れた。

覚えているのは、警察がやってきて止めたくらいだ。

俺は意識が遠のいた。





起きると、犬は死んでいた。


クタバッタ

シンダ


俺は恐れていないはずなのに、涙が出た。

なんでこんなにも優しくない人で溢れているのだろう。

この街は。


犬は病気を抱えていて、俺に会いたくてあそこまで歩いてきたのだという。


俺に会いたくて。

俺は消えてもいい存在なのに。




小さくて、白くて可愛らしかった犬。

もう、いない。


俺は叫んだ。













それから何年かして、俺は入院した。

病気が進行したらしい。



死を恐れていた。



















もし、自分の命がどうなっても良いと思っている人が

いたなら

そんなわけないと

俺は言うだろう



消えて良い命なんてなくて

ただ、消えるのを見ているだけの

人なんて

いなくなれば良いとおもう


幸せ溢れて

旅立つ


















大切な命










END








戻る










アクセス解析 SEO/SEO対策